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日外会誌. 89(7): 1049-1057, 1988


原著

急性膵炎時の肺障害の発生機序に関する実験的検討
一肺サーファクタント障害について一

東北大学 医学部第1外科(主任:佐藤寿雄教授)

砂村 眞琴 , 松野 正紀 , 武田 和憲 , 宮川 菊雄

(昭和62年7月30日受付)

I.内容要旨
急性膵炎には高頻度に肺機能障害を合併するが,肺水腫とともに膵phospholipase A2 (PLA2)による肺サーファクタントの破壊が重要な病態であると考えられてきた.本研究では重症膵炎モデル犬を用い,肺pressure volume curve (P-Vcurve)から肺表面張力を求め,肺サーファクタント障害について検討を行なつた.
雑種成犬の主膵管内よりNa-taurocholateを注入し出血壊死型膵炎を作成した.肺P-V curveを作製し肺表面張力を測定するとともに,肺胞洗浄液中の肺サーファクタントの主成分であるlecithinと分解産物のlysolecithin濃度比(Ly/Le)を求め,膵PLA2の肺サーファクタントに及ぼす影響を評価した.また肺血管外水分量の測定と動脈血液ガス分析も行なつた.Ly/Le値および血中PLA2の値は3時間後には既に有意な高値を示し,時間の経過とともに上昇傾向を認めた.一方,肺表面張力の値は膵炎作成後12時間までは変化を認めなかったが,20時間後には有意な増加を認めた.肺血管外水分量は3時間後より,A-aDO2値は12時間後より有意な上昇を示した.
本実験モデルにおいては,膵PLA2の上昇に伴うlecithinの分解と肺表面張力の上昇を認め,急性膵炎時における肺サーファクタントの破壊が証明された.また,肺血管透過性の亢進は肺表面張力の悪化に先行し,肺機能障害の原因になると推察された.肺サーファクタントの破壊は肺の機能的残気量を減少させるとともに肺の生体防御機構も低下させ,肺病変の進行に大きな影響を与えると考えられる.

キーワード
急性膵炎, 肺障害, 肺サーファクタント, phospholipase A2, 肺 pressure volume curve


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