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日外会誌. 89(5): 709-716, 1988


原著

ラット低温保存肝のエネルギー代謝回復に関する研究

京都府立医科大学 第2外科(指導:岡 隆宏教授)

塚本 賢治

(昭和62年7月3日受付)

I.内容要旨
低温保存された臓器が移植後機能を発現するためには保存臓器のエネルギー代謝回復が不可欠である.本研究は長時間低温保存肝のエネルギー代謝回復と臓器機能との関連を臓器単位で研究することを目的とした. ラット部分灌流肝を用い低温保存後再灌流時における肝アデノジン三燐酸(ATP)レベルと組織pHを燐核磁気共鳴法(31PNMR法)を用い測定した.灌流肝の酸素消費量,胆汁流量,グルコース放出速度も保存前後に測定した.摘出した部分肝をEuro-Collins液中に0℃で6または24時間浸漬保存した.低湿保存中にATPレベルは減少し保存6時間後にはATPの信号は認められなくなった.保存後,肝を酸素化したKrebs-Henseleit液を用い37℃で再灌流した.再灌流後40分で灌流肝のATPレベルは安定した.6および24時間保存肝のATPレベルは保存前のそれぞれ92%,76%に回復した.組織pHは24時間保存後でも保存前のレベルに回復した.24時間保存肝の酸素消費量は新鮮肝のそれより有意に増加していた.胆汁流量は24時間保存後でも有意には低下しなかった.これらの結果から長時間低温保存肝での酸素消費量に対するATP産生効率の低下,またはATP需要の増加が示唆された. また, ノルエピネフリンを灌流肝に投与し肝の糖新生を促進させた.24時間保存肝のグルコース放出は新鮮肝のそれに比べ低下していた.ノルエピネフリン投与により, ATPレベルは新鮮肝で5~10%, 24時間保存肝で20~25%低下した.24時間保存肝のノルエピネフリン投与による酸素消費量増加は新鮮肝のそれの半量であった.24時間保存肝の組織pHは,ノルエピネフリン投与により, 0.14pH単位低下したが,新鮮肝では0.07pH単位の低下にとどまった.これらの結果から,保存肝における糖新生過程の障害はミトコンドリアを経由する乳酸からの糖新生ステップの障害とミトコンドリア呼吸能の低下によるATP供給の低下がその主因と考えられた.

キーワード
燐核磁気共鳴法, 肝低温保存, 肝エネルギー代謝, ラット灌流肝


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