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日外会誌. 89(5): 717-724, 1988


原著

肝虚血による肝エネルギー代謝変動に関する研究
―特に虚血時肝冷却の効果に関して―

愛媛大学 医学部第2外科学教室(主任:木村 茂教授)

渡部 祐司

(昭和62年7月6日受付)

I.内容要旨
虚血による肝エネルギー代謝の変化と,それに対する冷却の効果をラットを用いて検討し,さらに肝エネルギー代謝の変化が血中へどのように反映されるかを調べ,以下の結果を得た. 1)虚血により肝Energy Charge (EC) は急激に低下したが,肝冷却によりEC低下は抑制された. 2)30分以内の虚血群では,血流再開後ECは回復したが, 60分虚血群では非可逆であった.しかし,肝冷却により60分虚血群にも回復を認めた. 3)細胞質とミトコンドリアのredox stateをそれぞれ〔pyruvate〕/〔lactate〕比および〔2-oxoglutarate〕x〔ammonia〕/〔glutamate〕比として求めると,常温の虚血では両者共ECの変動とほぼ並行した動きをしめした. 4) 冷虚血時にはミトコンドリアのredox stateはECとほぼ同様の変動となったが,細胞質のredox stateとECとの関係には,解離がみられた. 5)血液中〔pyruvate〕/〔lactate〕比は主に血中lactate濃度により規定され,さらにlactate濃度は肝ECと逆相関した. 6)血中〔2-oxoglutarate〕×〔ammonia〕/〔glutamate〕比は,主に血中アンモニア濃度により影響され,さらにアンモニア濃度は肝ECと逆相関した.以上より肝虚血時,冷却を加えると,エネルギー産生と密接な関係を持つミトコンドリアのredox stateが保存され,血流再開後のEC回復につながるものと思われた.また,血中lactate, アンモニア濃度は,血流再開後の肝ECの変動をよく反映し,特に血中アンモニア濃度は,冷却による肝EC保存効果をよく反映し,肝のエネルギー代謝やviabilityの判定に有用なパラメータであると結論された.

キーワード
肝虚血, 酸化還元状態, エネルギーチャージ, 肝表面冷却


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