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日外会誌. 89(3): 352-364, 1988


原著

進行直腸癌における臨床病理学的研究
―術前生検材料からみたリンパ節転移程度の予測―

久留米大学 医学部第1外科学教室 (主任:掛川暉夫教授)
久留米大学 医学部第2病理学教室 (指導:森松 稔教授)

諸富 立寿

(昭和62年4月8日受付)

I.内容要旨
直腸癌の外科治療では手術操作が骨盤腔を中心に広く加わるため泌尿・生殖器の機能障害を長期間残す結果となり易い.機能障害の発生を最小限にとどめるための努力は,根治性を保持した上で適切な切除範囲の決定にほかならない.幸なことに直腸癌の中には腫瘍の増殖に比し,比較的限局し,リンパ節転移,浸潤がことのほか少ない例が含まれている.これらの事実にもとづき生検材料から癌のリンパ節転移,浸潤の可能性を選別できるか否かについて検討した.すなわち,術前の生検材料におけるリンパ管侵襲(ly),小型腺管,未分化細胞(budding)の出現形態を検討し,さらにその切除標本のリンパ節転移状況と対比した.その結果,生検材料でlyを認めた時はリンパ節転移の可能性がきわめて高く,小型腺管や未分化細胞も同様にリンパ節転移率が高かつた.生検材料の連続切片からの検索では,小型腺管や未分化細胞はいずれもlyに準ずる所見であることが示唆された.生検におけるlyの出現率はさほど高くないが,buddingは高く,両者をあわせることにより判定に有用性がみられた. 
以上のような臨床病理学的検討にもとづき,下部直腸癌では生検にてly,buddsngを認めた場合は,リンパ節転移の可能性がきわめて高く,しかも多方向性が示唆された.尚,生検に際しては,その採取部位は肛門側癌周堤部でしかも粘膜下層を含めた採取が必要であり,そのためには特殊な生検鉗子が有用であることが判明した.

キーワード
直腸癌, リンパ節転移, リンパ管侵襲, 小型腺管群, 未分化細胞群


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