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日外会誌. 89(3): 365-375, 1988


原著

肝切除前後の代謝的変化
―特に硬変肝切除前後の糖新生とアラニン代謝―

神戸大学 医学部第1外科 (主任教授:斎藤洋一)

笠原 宏 , 大柳 治正 , 斎藤 洋一

(昭和62年3月9日受付)

I.内容要旨
Thioacetamide投与による肝硬変を作製し,肝切除前後の糖利用の程度やアミノ酸代謝と糖新生との関係を,主として肝灌流法を用いて検討した.
肝グリコーゲン量は正常肝では肝切除後一過性に有意に低下し,硬変肝では術前後を通じて低値のままであつた.肝fructose-2,6-bisphosphate量は正常肝で25.8±8.2nmoles/g. liver(fed),7.5±1.5(48h. starved),硬変肝で3.0±2.4(fed)であり,硬変肝における解糖系の低下と糖新生亢進が示された.肝切後は正常肝で1日目に0.76±0.94と有意に低下したが,硬変肝では術前より低値のままであつた.乳酸からの糖新生は正常肝では48時間絶食及び肝切後1日目に有意の亢進を認めたが,硬変肝では術前後を通じて亢進を認めた.アラニンからの糖新生は術前は正常肝,硬変肝ともに乳酸と同様であつたが,肝切後は共に糖新生の亢進を認めなかつた.肝total adenine nucleotides中のATPの割合(%ATP量)は正常肝で65.0±3.5%,硬変肝で56.0±4.4%であつた.肝切後は正常肝で48.6±7.4%,硬変肝で52.9±3.1%と低下した.肝のenergy charge(EC)も肝切後正常肝で0.77±0.02から0.66±0.05,硬変肝で0.74±0.03から0.68±0.02と減少し,硬変肝術前後のエネルギー産生能の低下がうかがわれた.In vivoのアラニン代謝は正常肝,硬変肝ともに肝切後の利用障害は認められなかつた.肝切後の灌流肝にて,アラニン投与により%ATP量及びECは正常肝,硬変肝ともに有意に上昇した.
以上より,正常肝では肝切後早期,硬変肝では術前後にわたり,解糖系の低下と糖新生系の異常状態が存在するため十分量のグルコースとインスリン投与が必要であり,またエネルギー産生を促進する物質のひとつとしてアラニン投与が有効であると考えられる.

キーワード
肝硬変, 肝切除, 糖代謝, アラニン代謝


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