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日外会誌. 89(2): 200-205, 1988


原著

原発性肝癌症例におけるミトコンドリア DNA の解析

山梨医科大学 第1外科

長堀 薫 , 山本 正之 , 松田 政徳 , 板倉 淳 , 飯塚 秀彦 , 在原 文夫 , 菅原 克彦

(昭和62年3月18日受付)

I.内容要旨
肝細胞癌の治療成績の向上には,個々の腫瘍の生物学的性状の把握が必要である.しかし,癌の悪性度は組織型や異型度以外に腫瘍発育速度,他臓器転移,多中心性発癌など様々な因子によつて総合的に判断され,いまだ解明されていない点が多く,基礎的研究の必要がある.今回著者らは, 1) 腫瘍の増殖はエネルギー依存性であること. 2) 正常肝細胞の発育エネルギー産生は主としてミトコンドリア(以下, mt)が担うこと. 3) mtは呼吸酵素も一部コードする独自の遺伝子をもつことに注目し,肝細胞癌のmt-DNAと腫瘍増殖形態との関連について調べた.対象は当教室で切除された10例の肝細胞癌患者で,癌部と非癌部のmt-DNAを比較し,その変異について検討した.癌部,非癌部の組織よりmt-DNAを抽出し制限酵素で切断した後電気泳動し, DNAフィルターを作製した.また, ヒトmt-DNA断片をプローブとして, DNAフィルターとの間でハイブリダイゼーション反応を行ないバンドとして検出し比較した.
2例に変化がみられた. 1例では癌部と非癌部とも1つのバンドが他の症例と比べて約60base pair (以下bp)大きくなっていた.この症例の種瘍は塊状型で腔瘍増殖速度が急速で胆管内侵襲も速く,胆管内に腫瘍塊と血栓を認めた.他の1例は3cmの腫瘍(doubling time 56.6日)に対して後下区域切除術後, 9カ月目に外側区域に3cm(doubling time 37.7日)の腫瘍を認め外側区域切除術を行なった症例であるが, 2度目の摘出肝癌部mt-DNAの1つのバンドの幅が広く濃度も濃くなっており,一部に変異が生じているものと考えられた.
以上の結果から,臨床的に進展度の速い腫瘍では,高いエネルギー需要に対応するためにmt-DNAに変化が生じている可能性が示唆された.

キーワード
肝細胞癌, ミトコンドリア DNA, サザンブロットハイブリダイゼーション法


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