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日外会誌. 88(6): 715-726, 1987


原著

肝硬変症の細網内皮系機能低下に対する網内系賦活剤投与の基礎的臨床的検討

千葉大学 医学部第2外科教室 (指導:磯野可一教授)

小林 進

(昭和61年7月17日受付)

I.内容要旨
肝硬変症は,肝癌,食道静脈瘤,胃十二指腸潰瘍など外科手術の対象となる疾患を高率に合併する.しかし,肝硬変患者は術後合併症が頻発し,しばしば致命的となる.今回,この肝硬変症の自己防御能低下の因子を検索する目的で,細網内皮系(RES)機能を測定し,さらに,その対策として,術前にOK-432によりRES機能の賦活を行ない,その効果につき,基礎的ならびに臨床的に検討した. 
(基礎的検討):肝硬変モデルとしてCCI4障害肝ラットを作製し,そのRES機能をRES総貧食能,Kupffer細胞貧食能,血漿中opsonin活性,血漿中opsonin物質(fibronectin,C3,IgG)濃度により検討した.さらにOK-432のRES機能に及ぼす効果を上記測定項目,及び,CCI4障害肝ラットでのischemic intestinal loop法による腹膜炎後生存率より検討した.CCI4障害肝ラットでは,正常肝ラットに比較し,IgGを除くすべての項目が有意に低値であり,そのRES機能は低下していた.しかし,OK-432投与によりすべての項目に上昇傾向がみられ,特に腹膜炎後生存率は33.3%(n=15)より80.0%(n=15)へと有意に改善されていた. 
(臨床的検討):硬変合併肝癌にて肝部分切除予定の18症例を対象とし,RES機能として,RES総貧食能,血漿中opsonin活性,血漿中opsonin物質(fibronectin,CI3,IgG)を測定した.OK-432投与は手術5日前より連日5.0KEずつ4日間行い,その効果を上記測定項目,ならびに術後合併症(肺合併症,腎障害,septic shock)発生率に及ぼす影響より検討した.基礎的検討同様,肝硬変患者は非硬変肝患者に比較し,IgG以外はすべて有意に低値であつた.これに対し,OK-432投与後はすべての項目に上昇傾向がみられ,術後合併症発生率にも低下がみられた. 
以上のごとく,肝硬変患者に対し,術前にOK-432によりRES機能を賦活しておくことは,術後合併症発生予防に有意義であることが基礎的ならびに臨床的に示された.

キーワード
肝硬変症, 細網内皮系(RES)機能, opsonin, OK-432, 術後合併症


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