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日外会誌. 88(6): 727-734, 1987


原著

肝硬変肝切除後の凝固・線溶動態よりみた急性潰瘍発生機序に関する実験的研究

神戸大学 医学部第1外科 (主任:斉藤洋一教授)

裏川 公章 , 熊谷 仁人 , 安積 靖友 , 伊藤 あつ子 , 佐埜 勇 , 斉藤 洋一

(昭和61年8月13日受付)

I.内容要旨
著者らは肝硬変特有の病態である凝固・線溶系の異常,門脈圧の亢進に注目して,肝硬変肝切後の急性潰瘍発生に凝固・線溶系の変動がいかに関与するかについて実験的に検討した. 
対象と方法:肝硬変ラットは体重200g前後のWistar系雄性ラットに4%thioacetamide(TAA)を10週間連続腹腔内へ投与する方法で作製し,肝切除はTAA投与終了1週目に約70%の肝切除を行つた.実験は,①肝切後の凝固・線溶動態,②肝切+水浸拘束負荷後の凝固・線溶動態に分けて行い以下の成績を得た.
1.肝硬変肝切3日目に,門脈圧は上昇を示し,胃壁血流は約23%減となつた. 
2.肝硬変肝切後は1~3日目に一過性の血中線溶の亢進を認めたが,肝切7日目には凝固・線溶系の各因子は肝切前値に復した. 
3.肝硬変群の胃粘膜局所線溶は血中線溶の亢進,門脈上昇,胃壁血流低下などにより,肝切3日目に最大の亢進を示した.しかし胃粘膜には明らかな出血を認めず,浮腫と充血が著明であつた. 
4.肝硬変肝切3日目に水浸拘束ストレスを負荷すると,負荷2時間後より血中・胃粘膜線溶は最大の亢進を示し,これに一致して胃粘膜に高度の出血とビランを認めた.一方,抗線溶剤ε-Amino Carpic Acidを投与した群では血中・粘膜線溶の亢進は軽度で,出血,ビランの発生は完全には抑制されないものの非投与群より低値を示した. 
以上より,肝硬変肝切後には術直後からの一過性の血中・胃粘膜線溶亢進を考慮に入れて,抗線溶剤や新鮮血漿などを投与すれば急性潰瘍発生の予防に役立つと推測された.

キーワード
肝硬変肝切除, 急性潰瘍, 血中凝固・線溶系, 胃粘膜局所線溶, 門脈圧


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