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日外会誌. 87(7): 724-736, 1986


原著

食道癌における局所免疫に関する免疫組織学的研究

岩手医科大学 医学部第1病理(主任:矢川寛一教授)
岩手医科大学 医学部第1外科(主任:森 昌造教授)

森 暁子

(昭和60年10月24日受付)

I.内容要旨
食道癌における局所免疫の状態を明らかにするために,癌周囲とくに粘膜固有層に浸潤する円形細胞および Ig保有細胞と予後に関連する因子(術前治療の有無・腫瘍長径・分化度・増殖様式・深達度・脈管侵襲の有無・リンパ節転移の程度・stage)との関係について,数量的解析を試みた.また癌組織周囲に浸潤するT細胞亜群の同定も行つた.
1982年から1984年にかけて岩手医科大学第1外科で手術施行した食道癌症例のうち胸部食道癌45例を検索対象とした.Ig 染色はホルマリン液固定,パラフィン切片を用い,DAKO社のPAP KITで酵素抗体法により行つた.T細胞亜群の同定はPLP液固定後,凍結切片を作製し,一次抗体にBecton Dickinson社のLeuシリーズを,二次抗体にペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG ヤギ Fab血清(MBL)を使用し,間接法で染色を行つた.
1)腫瘍周囲の粘膜固有層では,近位側5mmの範囲内に浸潤する単位面積(0.0056mm2)あたりの円形細胞数は口側16.7±6.4個,肛門側18.2±7.4個で,他の部位より有意に高値を示し,主体はリンパ球と形質細胞であつた.2)Ig 保有細胞のうち約50%がIgG,約45%がIgA,数%がIgMであつた.3)術前治療を行つた群の円形細胞数は14.0±6.3個で,術前無処置群の19.0±6.9個より有意に低値をとり,Ig 保有細胞でも術前治療を行つた群が術前無処置群より低値をとり,とくにIgA でその傾向が強かつた.4)円形細胞数とIg保有細胞数は各因子別の比較でほぼ相関した.腫瘍長径が大きい群は小さい群に比べ,分化度が低い群は高い群に比べ,外膜浸潤やリンパ節転移がない群はある群に比べ,円形細胞数,Ig 保有細胞数とも高値を示す傾向があつた.5)腫瘍周囲組織に浸潤するリンパ球はLeu4陽性細胞(T cell)が多く,Leu 2a,Leu 3a 陽性細胞は種々の割合で混在していた.

キーワード
食道癌の局所免疫応答, 免疫グロブリン保有細胞, T細胞亜群, 酵素抗体法


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