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日外会誌. 87(4): 456-463, 1986


症例報告

肝原発横紋筋肉腫と肝細胞癌の衝突癌切除症例の検討

福井医科大学 第2外科
*) 福井医科大学 中央検査部

森本 秀樹 , 高田 泰次 , 秋田 利明 , 加藤 佳典 , 谷川 允彦 , 村岡 隆介 , 浦田 洋二*)

(昭和60年7月5日受付)

I.内容要旨
肝原発の悪性腫瘍の中で,肝肉腫は1%内外を占めるまれなものであるが,肝細胞癌との併存は極めてまれであり,文献上8例の報告をみるのみである.著者らの症例は9例目にあたり,切除肝の病理組織学的検討で,肝細胞癌と横紋筋肉腫の衝突癌症例であることが証明された.特に横紋筋肉腫部では光顕レベルで明確な横紋構造を認めた.本症例において異常高値をとつた血中αFPは組織学的に肝細胞癌部のみが産生していたことが示され,その消長は臨床経過とよく相関した.肝切除後4カ月半で再発・死亡したが,剖検による検討で再発肝腫瘍は肝細胞癌のみであり,又,全身の他臓器,他組織に腫瘍性病変を認めず,横紋筋肉腫は肝原発であつたと判断された.
正常肝組織には横紋筋細胞は存在せず,その由来が議論されているが,primitive mesenchymal cell よりの横紋筋化生であるとする説や胎生期における迷入を考える説が有力である.その悪性化の機序に関しては不明であり,諸説が提唱されているが,肝細胞癌同様に肝硬変が何らかの形で関与している可能性がある.本症例でも軽度の肝硬変症の合併を認めた.
肝細胞癌と肝肉腫併存例における文献的検討では,肝細胞癌部は小さく,肝肉腫部が広汎に転移を起こしている報告が比較的多くみられるが,一般に肝肉腫は,slow growing,late metastasisであるとされ,本症例もこれを支持する腫瘍発育形式を示した.そこで,肝腫瘍に対しては,肉腫やその肝細胞癌との併存が凝われる場合においても,積極的な外科的切除が試みられるべきであり,肝細胞癌に準じた手術適応,手術術式の選択をしてよいものと考えられる.唯,補助療法としての肝動脈塞栓術や免疫化学療法に関しては肝肉腫の頻度のまれなこともあり,知見に乏しく,今後の検討が必要である.

キーワード
肝原発横紋筋肉腫, 肝肉腫, 重複癌, 衝突癌, 癌肉腫


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