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日外会誌. 86(5): 544-554, 1985


原著

肝阻血の血液凝固線溶系に及ぼす影響に関する実験的研究

名古屋大学 医学部第2外科(指導:近藤達平教授)

篠原 正彦 , 中尾 昭公

(昭和59年7月16日受付)

I.内容要旨
肝阻血の血液凝固線溶系に及ぼす影響を解明する目的で実験的研究を行つた.
雑種成犬を全身麻酔下に開腹し,ヘパリン化親水性カテーテルを用いて脾静脈と大腿静脈の間にバイパスを設けた後,肝十二指腸間膜と肝胃間膜を一括結紮して肝へ流入する血行を遮断し肝阻血を作成した.経時的に末梢静脈血を採取し,血液凝固線溶系の変動を測定した.また15分,30分,60分,90分間の一過性血行遮断の後,遮断を解除し,同様の測定を施行した.さらに肝組織を経時的に採取し,HE染色とPTAH染色にて検討した.
肝への血行を遮断したまま放置した5頭は,平均14時間ですべて死亡し,時間の経過とともに凝固能は徐々に低下した.30分以内の一過性血行遮断では早期に死亡した犬はなく,30分の血行遮断の後に遮断を解除すると,その直後には凝固能の低下が認められたが軽度であつた.60分の一過性血行遮断では,5頭中3頭は5日以内で死亡し,遮断解除後に急激な凝固能の低下とplasminogen,α2-plasmin inhibitorの低下が認められた.90分の一過性血行遮断では,平均11時間で5頭すべて死亡し,遮断解除後に凝固能の著明な低下と線溶系の亢進が認められ,消耗性凝固障害の所見を呈した.
また肝組織を検討すると,遮断が30分に達すると,類洞にフィブリン血栓の形成が疑われ,60分では類洞とグリソン鞘の門脈内にフィブリン血栓が広範に認められ,肝内で血管内凝固(disseminated intravascular coagulation,DIC)が発生したことが証明された.90分ではこの変化はさらに顕著となり,類洞内皮細胞の変性剝脱・肝細胞変性も認められたが,遮断解除後はフィブリン血栓の溶解流出が認められ,類洞内皮細胞ならびに肝細胞の変性は更に高度となり,肝内微小循環は障害され,急性肝不全と全身のDICを惹起させてショックに陥り,早期に死に至るものと推察された.

キーワード
肝阻血, DIC, 血液凝固線溶系, 急性肝不全, ヘパリン化親水性カテーテル


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