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日外会誌. 86(4): 404-410, 1985


原著

気道浸潤甲状腺癌の臨床病理学的検討

*) 大阪大学 第1外科
**) 大阪大学病院 病理部

津森 孝生*) , 中尾 量保*) , 宮田 正彦*) , 伊豆蔵 正明*) , 森田 実*) , 川島 康生*) , 桜井 幹己**)

(昭和59年7月6日受付)

I.内容要旨
気道浸潤甲状腺癌14症例(男性5例,女性9例)の発症年齢は,46~80歳で初発8例,再発6例であつた.
手術は,頚部器官の合併切除を含め,4例に喉頭全摘術を行ない,10例に3~8軟骨輪の気管環状切除後,端々吻合術を施行した.
切除標本の組織学的分類では,高分化乳頭腺癌5例,低分化乳頭腺癌5例,低分化濾胞腺癌1例,未分化癌2例,扁平上皮癌1例であつた.即ち,分化癌11例のうち低分化癌は6例(54.5%)を占めていた.対照として気道浸潤を伴わない甲状腺分化癌(乳頭腺癌,濾胞腺癌)70症例の組織学的検索では,高分化乳頭腺癌45例,低分化乳頭腺癌7例,高分化濾胞腺癌17例,低分化濾胞腺癌1例となつた.低分化癌は8例(11.4%)であつた.さらに気道浸潤例に非浸潤例を加えた分化癌81例中の低分化癌(14例),高分化癌(67例)についてTNM分類を行なつた.低分化癌では高分化癌に比しT3が10例(71.4%)と大部分を占め,N2,N3が8例(57.2%)と半数以上を占めていた.
以上より低分化癌の頻度は,気道非浸潤例よりも浸潤例に高率であることがわかつた.また低分化癌の生物学的態度は高分化癌に比し,局所浸潤性に富み,リンパ節転移率の高いことが判明した.
未分化癌の2例と扁平上皮癌の1例は,ともに分化癌の未分化癌転化ないし扁平上皮癌転化したものと考えられた.
気道浸潤癌14例の術後成績は,40日~5年9ヵ月の間で生存11例,死亡3例(低分化濾胞腺癌1例,未分化癌1例,扁平上皮癌1例)であり気道浸潤癌の非切除8例(5例が半年以内に死亡)に比し,有意に予後の改善がえられた.

キーワード
甲状腺癌, 気道浸潤, 気管形成術, 低分化癌


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