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日外会誌. 83(4): 345-351, 1982


原著

冷却心筋保護液使用時の局所心筋温度較差の研究
特に著しい冠動脈狭窄または閉塞時の変化について

日本医科大学 胸部外科

二宮 淳一

(昭和56年11月20日受付)

I.内容要旨
開心術時における冷却心筋保護液使用時に生ずる心筋温度不均一性について,最近認識されはじめたがその精細な研究は少ない.そのためこの研究の目的は,冠動脈にadenosine使用による左回旋枝の“critical stenosis”(狭窄群),および閉塞(閉塞群)を作製し,大動脈基部より4℃冷却心筋保護液を注入して,心節局所の温度変化を測定した.また3種のradioactive microsphereを使用して局所心筋流量も同時に測定した.これを左回旋枝の正常例(正常群)と比較し検討した.成犬11匹を使用して,28℃低体温使用による体外循環下に本実験を行つた.
その結果は,4℃冷却心筋保護液による心筋冷却は全ての群で,心内膜側,心筋内,心外膜側の心筋三層間で一様で統計学的に有意差は認められなかつた.しかし左回旋枝の狭窄群,閉塞群では,その領域の冷却心筋保護液注入直後に各々17.4±1.2℃,23.6±0.6℃であり,かつ最低温度に達するまでにさらに余分の時間を必要とした.これは正常群の8.3±0.5℃に比較してp<0.01で統計学的に有意であり,かつこの結果は局所心筋流量とよい相関(r=0.62,p<0.001)を示した.
また組織1g当りの消費カロリーは狭窄群で7.0±1.4カロリー/gで,閉塞群では3.0±0.4カロリー/gと正常群(12.8±0.6カロリー/g)と比較して有意に少なかつた(p<0.005).
これらの所見から,冷却心筋保護液使用による大動脈遮断中には,著しい冠動脈病変を有する心筋領域はもつとも危険に曝されやすく,その領域の心筋温度はよい指標になりうることを述べた.

キーワード
局所心節温度, 局所心筋流量, critical stenosis, adenosine, cold chemical cardioplegia


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