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日外会誌. 82(12): 1504-1515, 1981


原著

腹腔動脈起始部圧迫症候群に関する臨床的ならびに実験的検討

東京大学 医学部第1 外科学教室(指導:草間 悟教授)

宮澤 幸久

(昭和56年8月13日受付)

I.内容要旨
1) 腹腔動脈起始部圧迫症候群の7例を経験し,その臨床像を検討した.4例にD-xylose吸収試験を行つたが,吸収障害は1例のみに認められた.吸収障害の認められなかつた2例を含む5例に横隔膜内側弓状靱帯切離を中心とする減圧術を施行し,術後には全例で腹痛の消失と体重の増加が得られた.
2) イヌの腹腔動脈を前方から圧迫することにより狭窄し,以下の成績を得た. a)腹腔動脈の臨界狭窄は70%であり,これを越えると初めて総肝動脈血流量,脾動脈末梢圧の急激な低下がおこるのに対し,狭窄部より末梢の腹腔動脈領域に血管拡張をおこすと, 35%程度の狭窄で血流量,末梢血圧ともに低下し始め, 50%の狭窄では両者とも急激に低下することが観察された. b)上腸間膜動脈からの側副血行路を想定し,上腸間膜動脈と脾動脈との間に自家動脈バイパスを作製し,腹腔動脈を60%に狭窄した状態で狭窄部末梢の腹腔動脈領域に血管拡張をおこすと,総肝動脈血流量,上腸間膜動脈血流量は,それぞれ前値の50±10%,17±6%増加したのに対し,空腸管壁の組織血流量は逆に32±11%の減少を示した.
3) イヌの腹腔動脈を外周性に約85%狭窄し, 3週後と3カ月後にD-xyloseを牛挽肉100gに混入して摂取させ,投与前,投与後1,2,4時間に採血してD-xyloseの血中濃度を測定した. 3週後における2時間値および最高血中濃度値は,それぞれ38±2.4mg/dl,39±2.4mg/dlであり,コントロール群の49±1.5mg/dl,50±1.4mg/dlに比べ有意に低値であり, D-xylose吸収障害が認められたが, 3 カ月後には側副血行路の発達に伴い,吸収障害は改善されていた.
4) 以上から,本症にみられる体重減少は腹腔動脈領域の虚血にもとづく吸収障害によるものではなく,むしろ腹腔=上腸間膜動脈領域の血行動態の変動により生ずると考えられる食後の腹痛のため, 食餌摂取量が制限された結果であると推察された.

キーワード
腹腔動脈起始部圧迫症候群, D-xylose吸収試験, 腹腔動脈狭窄, 腸管虚血, 側方向大動脈造影


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