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日外会誌. 82(10): 1212-1223, 1981


原著

ストレス潰瘍発生時の自律神経に関する実験的研究
-胃壁血流量および胃運動量の測定より-

神戸大学 医学部第1外科教室(指導:斉藤洋一教授)

八田 敏

(昭和56年4月15日受付)

I.内容要旨
ストレス潰瘍の成因について,多くの研究が見られるが,いまだ結論は得られていない.本論文では,ラットの水浸拘束ストレス下に,胃運動量・胃壁血流量を経時的に測定し,ストレス潰瘍の発生機序, とくに自律神経系の関与について検索を行つた.
正常ラットでは,ストレス負荷2時間後より胃運動の亢進がはじまり,負荷5時問後にピーク時に達した.胃壁血流量は負荷後より減少を認め,胃運動のピーク時にほぼ一致して負荷前値の約35%となり,その後変動がみられず,全例に潰瘍発生が認められた.これに対して,迷切ラットおよび硫酸アトロピン投与ラットでは,胃運動の亢進がなく,胃壁血流量が負荷前値の約55%にとどまり,潰瘍発生も著明に抑制された.α-blocker あるいはβ-blocker投与ラットの胃運動は,前者では正常ラットと同様,後者では負荷直後より亢進した. また胃壁血流量はα-,β-blocker投与群ともに,負荷前値の40%程度で,潰瘍形成も軽度であつた.
さらにストレス下迷切ラットに, histamine あるいはserotoninを投与すると,各々43%, 45%とそれらの胃壁血流量は迷切ラットより減少を示し, 潰瘍の増悪を示した.
以上より,ストレスを負荷すると,交感神経に基づくα-receptorおよびβ-receptor の刺激で血管挛縮が生じ,他方迷走神経興奮と関係があるといわれる胃壁内histamine, serotonin等の作用が血管挙縮をさらに増強させ,胃壁内の循環障害が生じ,ストレス潰瘍の発生へと導かれるものと考えられる.また胃運動の面からみると, ストレス初期には,交感神経による胃運動抑制状態が迷走神経による胃運動亢進状態より優位に表面に現われ,胃運動は抑制状態となるが,ストレス持続と共にやがて交感神経機能が低下し,相対的に迷走神経機能が,優位となつて激しい胃運動が起きてくるとみられた.この運動の亢進は血流障害をさらに助長させ,高酸とともに潰瘍を増悪させるものと思われた.

キーワード
ストレス潰瘍, 自律神経, 胃血流, 胃運動, 胃液酸度


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