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日外会誌. 82(10): 1224-1230, 1981


原著

教室における術後急性潰瘍の検討

東北大学 第1外科(主任:佐藤寿雄教授)

今村 幹雄 , 亀山 仁一 , 佐々木 巌 , 宮川 英喜

(昭和56年5月21日受付)

I.内容要旨
過去20年間に腹部外科手術後に経験した術後急性潰瘍97例について検討した結果を報告した.本症は一旦発生すると予後は極めて不良で,死亡率は93.8%と高率であつた. 原疾患別では,肝,胆道および膵の悪性疾患で高度の閉塞性黄疸を合併したものに最も多く認められた.術前の胃液検査で,最高遊離塩酸濃度が80mEq/L 以上の胃酸分泌亢進例は23.5%にみられたにすぎなかつた. 原疾患の術前および術後の重篤な合併症としては,閉塞性黄疸,低蛋白血症, 貧血, 急性腎不全,肝不全,肺合併症,汎発性腹膜炎などが高頻度にみられた.死因としては急性潰瘍からの大量出血が直接死因となつたものが38例(41.8%)と最も多く, ついで,汎発性腹膜炎,急性腎不全,肝不全などが多くみられた.潰瘍の発生部位をみると,胃底部および胃体部に多くこれらを含むものが全体の60%を占めた.また,局所病変では多発性かつ浅在性で,しかも血管露出のないものが80%以上を占めた.手術術式については,潰瘍の発生部位から,約40%の症例では通常の広範囲胃切除術が,約60%においては胃全摘または胃亜全摘術が適応になると考えられた.手術を施行したものは7例(7.2%)にすぎなかつたが, このうち救命できたのは3例(42.9%)で,幽門側広範囲胃切除術で最も良い成績が得られた.しかし,保存的治療のみで救命できたのは3例(3.3%)であつた.
以上より,本症では徒らに保存的治療に拘泥することなく,緊急内視鏡検査で出血部位を確認し,症例によつては積極的に手術を行なうことが効果的な治療法であり, また,本症の高い死亡率を少しでも低下させるために有効と考えられた.

キーワード
術後急性潰瘍, 胃酸分泌, 閉塞性黄疸, 幽門側広範囲胃切除術, 胃(亜) 全摘術


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