[書誌情報] [全文PDF] (3688KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 82(5): 435-440, 1981


原著

バセドウ病の病因からみた外科療法の意義

信州大学 医学部第2外科

菅谷 昭 , 牧内 正夫 , 宮川 信 , 小林 克 , 金子 源吾

(昭和56年1月5日受付)

I.内容要旨
バセドウ病の成因を自己免疫異常の立場からとらえ,外科治療前後の細胞性ならびに体液性免疫能の変化と手術成績との関係について検索し,本症に対する外科療法の意義に関して臨床的検討を行つた.
細胞性免疫異常の検討:甲状腺粗抽出抗原に対する特異的細胞性免疫能の指標として, マクロファージ遊走阻止試験 (MIF test) を用いた. その結果,未治療例,甲状腺亜全切除後の治癒例および再発例の遊走指数(平均値±標準偏差)は, それぞれ59.7±13.5%,51.3±3.8%,G4.0±13.2%で,いずれの群においても,対照の健康人の遊走指数(95.0±13%) と比較すると有意の低下が認められた.すなわち,バセドウ病患者の末梢血中には,甲状腺特異抗原によつて感作されたTリンパ球の存在が明らかとなり,さらに本症の外科治療後, 5年から19年経過し治癒状態にあつても,なお甲状腺感作リンパ球の存在が認められたことより, 外科治療それ自身が, 患者の特異的細胞性免疫能を抑制することはないものと推測された.
体液性免疫異常の検討:術前の甲状腺自己抗体価(抗サイログロブリン抗体; TGHA および抗マイクロゾーム抗体; MCHA)ならびにそれらの術後変動と手術成績の関連について比較検討した結果,術前に両抗体の陰性例やMCHAのみが陽性で402以下の低抗体価を示す症例では,極めて良好な術後成績を示した.一方,両抗体の陽性例やMCHAの高値例では,術後再発や機能低下症に陥る傾向を示した.しかし,術後に再発の危険があるのか,あるいは機能低下に陥る傾向があるのかを,術前の抗体価やその変動のみから予測することは明らかにできなかつた.また,術後治癒例の多くにおいて, 外科療法後2年以上経過すると抗体価の低下する傾向が認められたことより,これらの抗体は,甲状腺刺激抗体や他の免疫異常現象の存在を反映する間接的な指標になり得る可能性が考えられた.

キーワード
バセドウ病, マクロファージ遊走阻止試験, 甲状腺自己抗体


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。