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日外会誌. 82(1): 42-50, 1981


原著

ヒト胃癌細胞の分裂能と担癌生体諸因子との関連について

神戸大学 医学部第1外科学教室

多淵 芳樹 , 滝口 安彦 , 村山 良雄 , 斉藤 洋一

(昭和55年6月14日受付)

I.内容要旨
ヒト胃癌47例の癌細胞分裂能をstathmokinetic methodで測定し,胃癌細胞分裂能と癌組織局所の細胞性間質反応および担癌生体諸因子との関連の有無を検討して,次の通りの結果を得た.
1) 癌組織内の無顆粒細胞(lymphoid cell)浸潤の程度と癌細胞分裂能との間には逆相関が認められた.2) 遅延型過敏皮膚反応が高度である程,末梢血のリンパ球数が多い程,癌細胞分裂能は低下する傾向が認められたが,T細胞数と癌細胞分裂能との間には関連は認められなかつた.3) 末梢血の血色素量・ヘマトクリット値・アルブミン量およびA/G比と癌細胞分裂能との間には,逆相関が認められた.また,α1・αグロブリンの増加に伴い,癌細胞分裂能は高まる傾向が認められたが,β・γ グロブリンと癌細胞分裂との間には関連は認められなかつた.4) 乳酸脱水素酵素(LDH)およびそのアイソエンザイムLDH3-5活性と癌細胞分裂能との間には,正の相関関係が認められた.
以上の結果より,癌組織内の無顆粒細胞は癌細胞の分裂を制御している可能性があることおよび生体内の細胞性免疫能の低下は癌細胞の分裂を促進している可能性があることが示唆された.また,癌細胞の分裂が盛んである程,生体の蛋白代謝・造血機能に及ぼす影響は大きく,その障害程度は癌細胞分裂能と比例して高度となり,しかも癌細胞の逸脱酵素とみなされているLDHは血清中に増加すると考えられた.

キーワード
胃癌細胞分裂能, 無顆粒細胞, 細胞性免疫能, 蛋白代謝, 乳酸脱水素酵素


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