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日外会誌. 81(12): 1590-1594, 1980


原著

頚動脈球腫瘍の1治験例
-正しい病態の認識にもとづく外科治療法-

1) 筑波大学 臨床医学系外科
2) 日赤医療センター 外科

藤本 吉秀1) , 高橋 有二2) , 太中 弘2)

(昭和55年4月7日受付)

I.内容要旨
頚動脈球腫瘍を有した41歳女性患者を経験した.術中の局所々見から本腫瘍と診断し,頚動脈の外膜下剝離により総頚動脈ー内頚動脈を温存して腫瘍を摘除し,術後合併症なく順調に回復した.術前, 腫瘍の圧追により内頚動脈の血流が阻害されて生じたと考えられる頭重感や立ちくらみが,腫瘍摘除により消失した.
内外の文献を調べると,欧米では1950年代のはじめに,本腫瘍が原則として発育緩慢な良性腫瘍であるという認識に立ち,頚動脈の外膜下剝離により腫瘍を摘除することを強調する方向に変つたのに対して,わが国では悪性のものが高率にあるとして頚動脈を合併切除しても根治的摘除に努めるべきであるという手術方法が多くの教科書・文献に今日なお記されている.わが国の古い報告例を再検討してみると,別の悪性腫瘍を頚動脈球腫瘍と誤診された疑いが濃厚である.頚動脈球腫瘍の病態についての正しい認識にもとづき,慎重な外科的処置が必要であることを強調したい.

キーワード
頚動脈球腫瘍, 外膜下剝離術


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