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日外会誌. 81(12): 1595-1600, 1980


原著

特発性食道破裂の1治験例

東京大学 第1外科

島津 久明 , 斉藤 英昭 , 石川 功 , 仙波 大右 , 碓井 昌 , 前田 守 , 盛岡 康晃 , 杉原 健一 , 朝隈 貞雄 , 小西 富夫

(昭和55年3月17日受付)

I.内容要旨
特発性食追破裂の1治験例について報告するとともに,その診断と治療上の問題点について文献上の知見を参照して考察を加えた.
自験例は67歳の男性で,破裂の4日後に手術的に破裂部の縫合閉鎖と胸腔ドレーンの挿入を行ったが,まもなく破裂部縫合創の哆開が起こった.さらにいろいろな合併症が続発したが,約5カ月間にわたる加療によって破裂創の自然閉鎖をみることができた.
診断においては,この疾患の存在に関する十分な認識が原点になることはいうまでもないが,発症様式,理学的所見,胸腹部X線写真の所見が重要な参考になり,胸腔穿刺液の性状や消化管造影によってその診断が確定される.消化管造影は破裂部位の診断のためにも是非必要である.
治療に関しては,保存的療法の成功例の報告もあるが,これはあくまでも縦隔内にとどまる小破裂のような特殊な場合に限るべきで,診断が確定すれば,なるべく速やかに手術的療法を行うのが原則である.基本的な手術操作は破裂部位の縫合閉鎖と胸腔ドレーンの挿入であるが,自験例においてみられたように,破裂後長時間を経過したような症例では,局所の著明な炎症性変化のために破裂部の縫合閉鎖が困難になり,仮に行ったとしても,高頻度に創哆開が起こることを十分に念頭におく必要がある.しかし,このような場合にも,胸腔ドレーンを適切な位置においてドレナージと洗滌を行うと同時に,全身管理を的確にねばり強く行えば,かなりの長期間を要するが,保存的に破裂創の閉鎖をはかりうる症例が少なくないものと考えられる.したがって,食道切除のような危険を伴う過大な手術方針を性急に採用することは得策でないものと思われる.

キーワード
特発性食道破裂, Boerhaave症候群


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