[書誌情報] [全文PDF] (5024KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 81(12): 1559-1569, 1980


原著

腹部領域選択的冷却法の実験的研究

自治医科大学 消化器外科
*) 自治医科大学 胸部外科

天目 純生 , 高橋 正年 , 笠原 小五郎 , 安田 是和 , 和田 祥之 , 森岡 恭彦 , 柏井 昭良 , 小藤田 敬介*)

(昭和55年4月14日受付)

I.内容要旨
肝・膵の拡大手術を可能にする目的で,腹部領域選択的冷却法の確立を図らんとした.
まず,常温下で下行大動脈,下大静脈遮断をおこないおもに血行動能の変動を検討した.雑種成犬6頭を用いて,横隔膜の頭側で下行大動脈・下大静脈を60分間遮断した際の血行動態の変動を, SWan-Ganz Catheterを用いて調べた. 両血管同時遮断は, それぞれの単独遮断より血行動態上安定したものであつたが,同時遮断直後より肺動脈終末拡張期圧は下降し, 心拍出量は前値の約1/2に減少した. その後,側副血行路により上半身の血液の下半身へのstealが起こり,肺動脈終末拡張期圧は更に下降し,心拍出量は前値の約30%に減少し,上半身の低潅流状態が出現した.このため冷却実験に際しては,腹部に貯留してくる血液を上半身に戻し,上半身の血行動態を安定化することが必要と考えられた.
雑種成犬8頭を用い,下行大動脈・下大静脈遮断後,大腿動静脈よりカニュレーションし,補助循環装置を用いて, 腹部領域を肝温で15~20℃まで冷却した. 冷却完了後60分間腹部を低温循環遮断状態におき,この間腹部に貯留してくる血液を補助循環装置により加温して外頚静脈に戻し,上半身の血行動態を安定化せしめた.全例で肝温の下降は速やかであり,一方食道温の下降は軽微で,腹部領域のみの選択的冷却は可能であつた. 8頭中5頭の2週間生存犬を得,生存犬では肝障害は軽微で,一過性であつた.
著者らの開発した腹部領域選択的冷却法は動物実験では安全性は高く,また無血手術を可能にするものと思われた.今後,肝・膵切除の各種モデル実験に用い,布用性の厳密な検討が必要と思われる.

キーワード
低体温法, 大動脈遮断, 下大静脈遮断, 補助循環装置, 肝・膵切除


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。