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日外会誌. 81(12): 1570-1575, 1980


原著

実験的門脈圧亢進症からみた食道静脈瘤の成因に関する研究
-胃血行動態面からの検討-

久留米大学 医学部第1外科

山名 秀明 , 武田 仁良 , 掛川 暉夫

(昭和55年4月23日受付)

I.内容要旨
門脈閉塞説により門脈圧亢進症の概念が始めて提唱され約半世紀が過ぎた. この間に,門脈圧の下降を目標として施行されてきた外科的治療は次第に食道静脈瘤よりの出血に対する治療に変わつてきた.近年,食道静脈瘤に対する手術成績はめざましい進歩をとげ,良好な成績が報告されるようになつたが,術式の選択においては今だに一定したものが無い. この一因として,門脈圧亢進症の病態や食道静脈瘤の成因について不明な点が数多く存在していることが考えられる.従来より,食道静脈瘤の成因としては門脈血流出障害により発生した門脈圧の亢進によつて形成される副血行路の一つとして単に考えられてきたようである. しかしながら,臨床においてはこの考えのみでは多くの矛盾がみられることより,井口らの弛まぬ臨床研究によりその成因としてhyperhemodynamic stateが提唱された.
私どもは実験的研究から,門脈圧の亢進のみでは食道静脈瘤の形成は困難と考え,臨床病態類似の門脈亢進作成を試み, intrahepatic resistance を上昇させることにより門脈圧を亢進させる肝圧縮法を考案した.今回,この肝圧縮法による実験的門脈圧亢進症を雑種成犬18頭に試み,血管造影所見と組織所見により検索したところ,左胃動静脈シャントの増大を示唆する所見を得た.そこで,これを証明するために3頭の門脈庄亢進犬を用いて左胃動脈より131I-M.A.A. を注入し,各臓器への分布状態を測定してみた.control犬3頭においては,注入した131I-M.A.A.の98%が胃に残存していたが, 門脈圧亢進犬においては24%が胃外の臓器に流出しており明らかなシャントの増大が証明され, このシャントの増大による胃上部の血流増加と,門脈圧亢進による静脈血の流出障害が食道静脈瘤形成の因子として重要なものと思われた.

キーワード
食道静脈瘤, 肝圧縮法, 胃内動静脈シャント, 131-M.A.A., hyperhemodynamic state


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