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日外会誌. 81(7): 581-593, 1980


原著

エンドトキシンのエネルギー代謝に及ぼす影響
-特に肝ミトコンドリア機能と肝アデニンヌクレオタイドの動態について-

金沢大学 医学部外科学第2講座(主任:宮崎逸夫教授)

上田 博

(昭和54年10月8日受付)

I.内容要旨
エンドトキシンのエネルギー代謝に及ぼす影響をラット肝ミトコンドリア機能とアデニンヌクレオタイドの面から検討した.実験方法として,1) 酸素電極法を用いて肝ミトコンドリア呼吸を測定し,エンドトキシンの直接作用の検討, 2) エンドトキシンの生体投与における経時的な分離肝ミトコンドリア機能と,アデニンヌクレオタイドの動態の検討, 3) ショック時の諸因子を除外できるMortimore型の潅流肝を作製し,エンドトキシン及び循環不全の肝アデニンヌクレオタイドに及ぼす影響,の3点より検討し以下の結論を得た.
I. エンドトキシンは一定濃度以上で,無傷のミトコンドリア機能に対する直接作用として,脱共役作用を有しATP産生を抑制する.
II. エンドトキシン血症の経時的変化として, 1 ~ 2時間目で分離した肝ミトコンドリアではADP/O比に変化はなく,脱共役作用を受けておらず,かえつて呼吸調節比の上昇がみられた. 3時間目では呼吸調節比の低下を伴なわないADP/O比の低下があり,又肝AMP量の増加によるenergy charge の低下が認められ,エネルギー代謝障害の初期像と考えた.
III. 3時間目以降では呼吸調節比, ADP/O比の低下に伴い,急速に肝ATP量, energy charge, total adenine nucleotideは減少し,著明なエネルギー代謝障害が認められた.
IV.肝潅流実験では高濃度のエンドトキシン投与によつても肝アデニンヌクレオタイドには変化は認められず,直接作用を指摘できなかつた.しかし潅流量低下による循環不全の条件下では,生体投与で3時間以降に認められたと同様のエネルギー代謝障害を認めた.従つてエンドトキシンショックでのエネルギ一代謝障害は循環不全による影響が強いが,一旦エンドトキシンがミトコンドリアに接するような細胞障害がおきれば, ミトコンドリアの機能障害を生じ,ショックが重篤化し易いものと考える.

キーワード
エンドトキシンショック, エネルギー代謝, ミトコンドリア, アデニンヌクレオタイド, 肝潅流


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