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日外会誌. 81(5): 416-426, 1980


原著

閉塞性黄疸の胃粘膜関門におよぼす影響についての実験的研究

東北大学 第1外科教室(主任:佐藤寿雄教授)

桃野 哲 , 関根 毅 , 亀山 仁一 , 佐々木 巖

(昭和54年8月1日受付)

I.内容要旨
閉塞性黄疸例の術後に併発する急性の胃潰瘍と胃粘膜関門の関係を解明する目的で, Heidenhain pouch犬を用いて,総胆管結紮により黄疸モデルを作成し,黄疸の胃粘膜関門におよぼす影響について, H+およびNa+のgastric mucosal permeability とtransmucosal electrical potential difference を中心に検討した.
黄疸の⊿H+,⊿Na+におよぼす影響についてみると, 100mN 塩酸溶液による潅流では黄疸前後で有意差はなかつた.また, 150mN 塩酸溶液による潅流でも同様であつた.しかし, 20mM タウロコール酸(TCh)添加100mN塩酸溶液による潅流では塩酸溶液による潅流時に比して⊿H+,⊿Na+は著明に亢進したが,黄疸の前後および黄疸の持続期間で有意差は認められなかつた.また,黄疸のPDにおよぼす影響についてみると,100mNおよび150mN塩酸溶液のいずれの潅流でも-50mV前後を示し,塩酸の濃度による差はみられなかつた.20mM TCh添加100mN塩酸溶液の潅流では潅流開始とともにPDは著明に下降して-20mV 前後を示し,つぎの100mN 塩酸溶液の潅流で次第に回復する傾向がみられた.しかし,黄疸前後においてPDはほとんど同じ傾向を示した.さらに,黄疸時の脱血による出血性ショックについてみると,PD は下降したが, ⊿H+,⊿Na+は亢進を示さず,ショックの前後において差はみられなかつた.一方, TChのPD と⊿H+,⊿Na+におよぼす影響についてみると,100mN塩酸に添加したTCh濃度(1~35mM) と⊿H+,⊿Na,ΣPD の反応との間にはdose-response relationship がみられ, 10~20mM濃度で最大の反応を示したが,黄疸前後で差は認められなかつた.また, TChの⊿H+,⊿Na+,ΣPD に対するED50でも黄疸前後において有意差はみられず,胃粘膜関門は黄疸時にTChにより障害されやすい所見は認められなかつた.
以上の成績から,黄疸のみでは胃粘膜関門は必ずしも障害されてはいないことか示唆された.

キーワード
閉塞性黄疸, 総胆管結紮, 胃粘膜関門, gastric mucosal permeability, transmucosal electrical potential difference.


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