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日外会誌. 81(5): 427-440, 1980


原著

肝虚血の耐容性と機能維持に関する実験的研究

北海道大学 医学部第1外科教室(指導:葛西洋一教授)

平良 健康

(昭和54年8月2日受付)

I.内容要旨
常温下肝虚血の耐容性に関して,従来,虚血安全限界時間として多くの知見があるが,代謝的指標からみた安全限界の予測では,いまだ明らかでない部分が多い.著者は,肝虚血の耐容性をエネルギー代謝の面から明らかにし,それによつて酸素補給下の肝虚血耐容性の維持を評価することを試みた.
方法は, 1) ラット肝の流入血行を遮断し,虚血時および血流再開後の肝組織中アデニンヌクレオチドを検査し,虚血解除後の動物の生死との関連を検討した. 2) 酸素運搬体を含む潅流液を用いて,常温下ラット肝潅流をおこない.肝エネルギー代謝の経時的変化を検査し,虚血耐容性を検討した.そこで次の結論を得た.虚血後の肝エネルギー状態は急速に低下するが,虚血20分以内では,肝血流再開によつて,正常域値まで回復した.虚血後の肝ATP 値を正常肝値に対する比率Rで表現すると,虚血10~15分でR=13%(極小値), 25分でR=17%(極大値)をとるが, 以後は漸減した.血流再開1時間後のR値は,虚血時間 (T) と共に減少し,両者は負の相関をとつた.一方,実測値RおよびTから,虚血肝ではR=AT,血流再開後の肝ではR=A(T+1) として,共通の「回復勾配A値」が得られた.このA値は,虚血時間に依存して減少した(A=1.636/(T + 1)-0.596).A値の減少は虚血解除後の動物の死亡率上昇と対応し,両者の相関をみとめた.すなわち, A値は血流再開後のエネルギー産生の回復能を表現し,肝虚血耐容性の指標としうる.そこで虚血50分(耐容時間)の下で, A値は0.29であり,これは安全限界値とみなされた.
酸素運搬体Perfluorochemicalを10w/v%含む潅流液で潅流した肝では,糖新生,エネルギー産生は良好に維持され,虚血耐容時間は120分(非潅流肝の2.4倍)まで延長されることが判明した.

キーワード
肝虚血, 肝潅流, 肝ATP, 肝糖新生能, Perfluorochemical


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