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日外会誌. 81(4): 317-329, 1980


原著

7・12-Dimethylbenzanthraceneによるラット膵癌の病理組織学的研究

大阪市立大学 第1外科(主任:梅山馨教授)

山下 健東

(昭和54年10月19日受付)

I.内容要旨
膵癌は増加傾向にあるが,その早期診断が困難なことから治療成績は極めて不良である.かかる現況から臨床的研究にも有用な膵癌の実験モデルの確立がのぞまれている.最近,いくつかの実験膵癌の研究結果が報告されているが,未だ満足すべき実験モデルはみられない.
そこで著者は7・12-Dimethylbenzanthracene (DMBA)の結晶をdouble lumen needleを用いてSprague-Dawley ラットの膵内に直接接種する方法により膵癌の実験モデルを作成し,その組織学的特徴ならびに発癌過程について検討した結果,以下の成績を得た.
1) DMBA接種後120日以上生存し360日までの間に死亡あるいは屠殺したラット155匹中106匹に膵癌の発生がみられ,その発癌率は68.4%であった.他臓器での腫瘍発生はみられなかった.
2) 発生した膵癌の組織像はtubular adenocarcinoma 15匹 (14.2%),poorly differentiated adenocarcinoma 61匹 (58.1%),adenosquamous carcinoma 4匹 (3.9%),acinar cell carcinoma 9匹 (8.5%),undifferentiated carcinoma 13匹 (12.4%),pseudosarcoma 4匹 (3.9%) であり, ductal type の腺癌が80匹 (75.5%) を占めた.
3) ラット膵癌106匹のうち周囲臓器への直接浸潤は35匹 (33.0%) にみられ, とくに胃,脾,肝に多かった.またリンパ管浸潤は23匹 (21.7%)に,静脈浸潤は17匹 (16.0%) にみられた.さらにリンパ節転移が18匹 (17.0%),肺転移が2匹(1.9%)にみられたほか腹腔内播種性転移が48匹 (45.3%) にみられ,そのうち35匹には血性腹水10~260ml を伴う癌性腹膜炎の像を呈した.
4) DMBA接種部周辺に増生した膵管上皮には種々の段階の異型像がみられ,そのなかには細胞異型ならびに構造異型をも伴い癌細胞と区別しがたい像も観察され,腺管癌の発癌過程を類推させた.
以上より,本実験系は発癌率,発癌期間および組織像の点から,比較的良好な膵癌の実験モデルと考えられる.

キーワード
7• 12-Dimethylbenzanthracene (DMBA), 膵実質内投与, 実験膵癌, 発癌率, 膵癌組織像


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