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日外会誌. 124(6): 584-586, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「若手教育の光と影」
5.未来の指導者となる若手医師の教育

1) 浜松医科大学 外科学第二講座
2) 浜松医科大学 外科学第一講座

阪田 麻裕1) , 立田 協太1) , 杉山 洸裕1) , 小嶋 忠浩1) , 赤井 俊也1) , 鈴木 克徳1) , 鳥居 翔2) , 菊池 寛利1) , 平松 良浩1) , 倉地 清隆1) , 竹内 裕也1)

(2023年4月29日受付)



キーワード
ビデオクリニック, コロンベア, 指導医, Well-being

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I.はじめに
外科医の減少が問題として捉えられるようになり久しいが,未だ画期的な改善策はなく,特に地方都市における外科医の減少は著明である.ほとんどの地方大学医学部は県内に一つのことが多く,都市部出身の医学生は卒業後,都市部へ戻ることが多い.いかに外科医希望者を増やし,外科医を育成するかが喫緊の課題である.
一人の外科医が執刀できる手術には限りがあり,いずれ引退する時がくる.外科医が学ぶべき手術手技や周術期管理は多岐にわたり,次世代へ継承すべきものである.しかし,指導者も若手医師も少数の地域や施設において,これら継承すべきことを単施設で完結することは難しい時代となってきたと考える.
当科は愛知県東部~静岡県全域に関連病院があり,若手医師は数年毎に大学病院と関連病院で修練を行っている.様々な規模の施設で,高度医療から地域医療まで幅広く学ぶことが可能である.専攻医3年間で300例以上の執刀の機会があり,外科専門医・消化器外科専門医取得に必要症例数を経験する.医師不足の地域では,消化器外科疾患以外にも対応し,標準治療やガイドラインに則った治療が全てではないことも学ぶ.若手医師は,修練施設毎の治療方針の考え方や手技の違いに悩むことも少なくない.指導医が少ない施設では,指導医は十分に若手医師へ指導できる余裕がなく精神的身体的な負担が増えてくる.
修練とワークライフバランス,働き方改革を考慮した効率よく修練できる環境作りが必要と考え,2022年より当院および関連病院の下部消化管外科医・専攻医約30名で医師主導型オンライン勉強会「コロンベア」を立ち上げたので報告する.

II.当科の取り組み
コロンベアは,施設・グループ・世代を超えた横断的ネットワーク形成,腹腔鏡手術やロボット支援下手術の手術手技向上,困った症例の相談,各々のスキルアップを目的に,毎月1回,約1時間,オンラインでビデオクリニックや指導医によるウェビナーを行い,日常の疑問をリアルタイムで相談,共有,解決していくことが可能である.幅広い年代が参加し,司会は若手医師が担当,自由に途中参加・退席,欠席可能である.2023年4月までにコロンベアを計10回開催し,ビデオクリニック演者2名が技術認定医審査に合格した.
<ビデオクリニック>
他院の同世代の手術を学び,手術中に質問できなかったこと,質問し辛いことを聞くことができる利点がある.若手医師が司会を担当するため,「指導医が発言・若手医師が黙って聞いているだけ」という状況が減り,若手医師からの積極的な発言が増えた.相手に伝えるため,手術手技を言語化できるようになり,実際の手術においても言語化がすすんできた.
<ウェビナー>
2022年度後半は,若手医師対象アンケート結果をもとに講師とテーマを決めウェビナーを行った.他施設の手術を見ることで,自施設の手術と比較でき,違いを認識し,指導医の意図を理解しやすくなった.しかし,緊急手術や講師の確保が困難で休会となる月があり,講師となる指導医の負担が大きいと思われた.
<コロンベア1年アンケート>
コロンベア開始1年時点でアンケート調査を行った.回答率は50%であった.卒後6年~30年までの幅広い年代から回答をえた.コロンベア全体,ビデオクリニック・ウェビナーの満足度はいずれも高く,月1回の開催頻度は適切との回答が多かった.
ビデオクリニックに対して,
・自施設内では似たような手術手技になるため,他施設の若手の手術を見る機会が増えてよかった
・今後も同様の形式での開催継続を期待する
・できるだけ指導的コメントが入った方が勉強になる
・指導医のコメントがもう少し入った方がいい
・録画をして後で見直せるようにしたい
等の意見があり,導入期の開催形式は適切であったと考えるが,指導医に関する課題があげられた.
ウェビナーに対して,
・特殊な症例への工夫や対応を学びたい
・大きな会では出しにくい・議題になりにくい困難症例を共有できるといい
・多施設の指導医のウェビナーを聞きたい
・録画をして後で見直せるようにしたい
等の意見があり,ウェビナーへの需要は大きいが,講師への期待も大きいことが明らかとなった.
<若手教育に対する光と影>
コロンベアは,他施設の手術手技や指導内容を学ぶ大変良い機会であること,初学者にぜひ聞いて・見てもらいたい内容が多いこと,多くの若手医師が悩む点をピックアップできること,施設を越えた交流ができること,が若手医師にとって大きな光となっている.一方,指導医によって手術手技や方法等が多少異なるため若手医師が混乱する可能性,若手医師がどこまで勉強して手術に臨んでいるか不明で,どこまで介入し指導すべきか分からないこと,指導医の言うことに若手医師がそってくれないことがあること,もう少し若手医師に自発的な工夫と努力をして欲しいこと,消化器外科志望ではない若手に執刀させる基準が難しいこと等が指導医にとって影となっていた.

III.今後の展望
外科医を育成することは容易ではない.教育について専門的な教育を受け育った指導医は少ないが,未来の指導医を育成することは必要である.若手は忙しくて大変だと注目されているが,指導医の身体的,精神的な負担は仕方がないと容認される傾向にある.教わり上手な若手,教え上手な指導医が理想であるが,現実は異なる.「教えてもらっていないので知りません,聞いてません.」,「昔はこうだった,とか言うの,やめてもらえます?」,「毎回報告しないとダメですか?手間なんです.面倒なんです.」という若手,「自分は厳しく指導されてきたけど・・・」,「今は○○ハラスメントってすぐ言われるし・・・」,「若手のフォローは上級医がするように言われるけど,上級医の仕事のフォローは・・・」という指導医の声が聞こえてくる.また,「上司と合わなくて,あまり手術をさせてもらえなかった」,「指導医に気に入られたからたくさん手術をあててもらえた」という声もあるが,手術はご褒美でも外科医のためのものでもない.持続可能な安心安全な医療体制の維持を考えていかなければならない.自身の健康管理も大切で,仕事だけしていればいいわけではなく,Well-beingにつながる働き方が大切である.
<必要とされる心構え>
若手医師:
・手術は思い出作りではない
・自分が指導医の立場になった状況を想定しながら日々の研鑽を積む
・指導されることを当たり前と思い過ぎない
・個人の努力も必要
・集中して学ぶ時期も必要
指導医:
・手術指導は,ただ「できる」レベルではなく,最初から「指導できる」レベルを目指す
・チームとして繰り返し振り返る場を作る
・コミュニケーション良好な環境を作る
・年齢差を気にし過ぎない発言しやすい雰囲気づくり(親しき中にも礼儀あり)
<コロンベアの意義>
どの年代の外科医にとっても過度の負担とならず,有意義で継続性があるものにしていきたい.オンライン開催の利点を生かし,他の地域への展開やアーカイブ化,コロンベア開催後一定期間質疑応答可能な体制作りを行い,多様性のある働き方に柔軟に対応することを目指す.

IV.おわりに
地方大学において未来の指導者となる若手医師を育成することは喫緊の課題である.医師主導型オンライン勉強会は,未来の指導者育成の光となりうる可能性がある.

 
利益相反:なし

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