日外会誌. 124(6): 549-552, 2023
定期学術集会特別企画記録
第123回日本外科学会定期学術集会
特別企画(1)「インフォームドコンセントの功罪―理想のICとは―」
4.大腸癌手術での理想のICを求めて
千葉県がんセンター 食道・胃腸外科 早田 浩明 , 外岡 亨 , 高山 亘 , 鍋谷 圭宏 , 千葉 聡 , 加野 将之 , 水藤 広 , 桑山 直樹 , 黒崎 剛史 (2023年4月27日受付) |
キーワード
インフォームドコンセント(IC), IC委員会, Shared Decision Making(SDM)
I.はじめに
当院での腹腔鏡手術死亡事故の第三者検証委員会報告書1)が2015年に発表され,当院でのインフォームドコンセント(IC)改革が始まった.病院全体で理想のICを追究し,行ってきた改善と課題を大腸癌手術のICを例に示す.
II.IC規定
第三者検証委員会報告書では患者の自己決定権を尊重した十分な説明がされず,カルテ記載も不十分であるとされ,改善を求められた.この提言を受けて「患者は必要な説明を受け,十分に理解した上で自らが受ける診療行為を決定する権利を有する.その決定権を保証するために必要十分な情報・助言を事前に提供し,患者が自主的に意思決定を行えるようにしなければならない.この過程をICと定義する.」とのIC規定がなされた.
III.IC委員会設置
適切なICを実践するため研修,管理,監査するIC委員会を2015年に医師,看護師,薬剤師,検査技師,放射線技師,診療情報管理士,事務職員の多職種で発足させた.委員会の活動目的はIC文書の審査と統一化,適切なIC環境の整備と教育,監査であった.委員会はIC文書に病名病状,手術名,予定日,麻酔方法,手術予定時間,目的,具体的内容,治療効果,合併症,有害事象,他治療法,セカンドオピニオンの説明を必須項目とし,更に絵や表を多用し患者が理解できる平易な言葉遣いで,治療成績(生存率等)や合併症率等の数値は当院の治療データで書くことを求めた.委員会で審査認定された腹腔鏡補助下S状結腸切除術のIC文書を図に示す(図1,図2,図3).病状,術式などを図で説明し,腹腔鏡以外の術式や,セカンドオピニオンについても言及している.委員会は患者が理解しやすい環境を作り,患者の意思決定のために十分な時間とアドバイスを提供することを求めたため, ICは原則として家族などが同席し外来で行い,終了後に医師不在で看護師が患者の理解度をチェック表で確認し,ICのカルテ記載用フォーマットを作り,IC内容をカルテに医師が記載するルールとした.これらの基準に満たないICを行った場合には委員会から改善を求められた.
IV.IC委員会の功罪
審査認定されたIC文書は合併症などのリスク表示に不足がない一方で,画一的なため医師の治療への情熱が患者に伝わりづらく,また文書量が多いため患者が読み返さない危惧がある.また原則外来で行うことで,患者には病状理解や治療法の選択に時間的余裕ができたが,IC自体が監査の対象であり,看護師の同席が求められ医療側の労力的かつ時間的負担が否めない.
V.IC委員会院外委員とSDM
現在IC委員会は,弁護士,教員,消防士,乳がん経験の患者団体代表を含めた院外委員6名が加わり,医療者と異なる視点からの意見を反映し,患者視点からのICを模索し始めた.更に,共有意思決定:Shared Decision Making(SDM)への意見が院外委員から「患者個人で考え方が違うため,医師等と相談しながらより良い治療プロセスを見つけていくのは非常に大切であり,診療開始初期に治療方針提案のような文書があれば,重要な役割を果たすと思う.その後,より具体的な治療内容を詳細なIC文書で説明すれば,患者の理解度も今よりも深まる.」と寄せられた.患者と医師の両方が医学的な意思決定に貢献しつつ,患者が自分の価値観や信念を元に,十分な情報に基づいて決定を下すSDM については,当院では診療の初期の段階でIC文書とは別に治療方針提案書として簡単な文書を患者に提供し対話を進めながら検査し,治療開始前にIC文書で説明し同意を得ることを考えている.
VI.おわりに
現代のICは,医療知識のない患者に病状を理解してもらい,治療法を選択してもらう重要な医療の一部である.われわれは過去の反省から理想のICを追究し,日々更新される医療に対応しつつ改良を続けている.
利益相反:なし
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