日外会誌. 124(6): 514-520, 2023
特集
先天性嚢胞性肺疾患のup to date
8.一般呼吸器外科医の見地から
福岡大学医学部 外科学講座呼吸器・乳腺内分泌・小児外科 岩中 剛 , 白石 武史 , 廣瀬 龍一郎 , 佐藤 寿彦 |
キーワード
先天性嚢胞性肺疾患, 先天性肺気道奇形, 肺分画症, 気管支原性嚢胞, 先天性気管支閉鎖症
I.はじめに
先天性嚢胞性肺疾患(Congenital cystic lung disease:CCLD)は,「肺内に気道以外に先天性に肉眼的,顕微鏡的な嚢胞腔が恒常的に存在するもの」1)とされ,いまだに確立された疾患分類はないが,一般的には先天性肺気道奇形(Congenital pulmonary airway malformation:CPAM),肺分画症(Pulmonary sequestration:PS),気管支原性嚢胞(Bronchogenic cyst:BC),気管支閉鎖症(Bronchial atresia:BA)などが含まれる.
CCLDは小児外科領域における重要な呼吸器疾患であり,乳幼児期までに発見される症例がほとんどである.しかし,成人期に発症する症例や,成人後に健診や他疾患の精査の際に偶発的に発見される症例もあるため,一般呼吸器外科医にとっても希少ながら治療法を理解しておくべき重要な疾患である.また,呼吸器外科手術に習熟した小児外科医が少ない本邦では,一般呼吸器外科医が小児例の手術を担当することも多く,この意味でもCCLDは一般呼吸器外科医にとっても重要な疾患といえる.
本稿では,成人例のCCLDに関する報告をレビューし,自験例を交えて一般呼吸器外科医の見地からCCLDの治療方針を考察する.
II.CCLDの成人例
[Congenital pulmonary airway malformation]
CCLDの代表的な疾患はCPAMである.10,000~35,000出生に1例という稀な頻度ではあるがCCLDの25~43%を占め2)3),8割以上が乳幼児期までに発症するとされる.一方で,成人期に発症あるいは発見される例も多数報告されている.
Hamanakaら4)は61例のCPAM成人例のレビューを行い,平均年齢は38.0歳(21~80歳)で性差はなく,症状の記載のある58例中50例で呼吸器症状や呼吸器感染症の既往が診断の契機であったとした.また,このうち21例が肺炎,肺膿瘍,肺結核症,肺アスペルギルス症,非定型抗酸菌症などの重篤な呼吸器感染症を伴ったと報告した.手術術式に関して記載のある44例中,片肺全摘術,肺葉(二葉を含む)切除術,部分または区域切除術がそれぞれ,1/38/5例に行われ,肺葉切除術以上が89%を占めた.また,7例が気胸の発症を契機としてCPAMの診断に至ったことを報告し,嚢胞性病変の破裂による気胸の発症が診断の契機となることが成人発見例の特徴の一つである可能性を指摘した.その上で,自然気胸においては軽微なCPAMの潜伏が意外に多いのではないかと推測し,多発嚢胞性病変が特に下葉にみられる場合はCPAMの可能性を考慮すべきとしている.
Zengら5)は単一施設におけるCPAMの成人手術例46例をまとめた報告の中で,33例(72%)で術中に胸膜癒着を認め,うち12例(29%)は強固な癒着のために手術時間が延長し,1例がVATS(video-assisted thoracic surgery)から開胸への移行を必要としたと報告した.癒着剥離に伴う術後合併症は4例(8.7%)に認めたとし,成人例では肺感染症を繰り返すことで胸膜癒着を生じるため,経過観察が長期になると炎症性胸膜癒着による手術リスク上昇の可能性を示唆している.
[Pulmonary sequestration]
PSは肺葉内肺分画症(Intralobar pulmonary sequestration:IPS)と,肺葉外肺分画症(Extralobar pulmonary sequestration:EPS)に分類される.IPSは正常気管支と交通があるため感染に伴う症状を呈することが多く,EPSは無症候性であることが多いとされている.
Weiら6)は,小児から成人までの2,625例のPS症例をレビューし,成人例は小児例に比べてIPSの割合が有意に高いことを報告した(成人例:88%,小児例:71%).また,Renら7)は,PS成人例97例の報告の中で75例(77.3%)が咳嗽,喀痰,血痰,発熱などの症状を呈して発見され,術中所見で強い胸膜癒着を36例(37.1%)に認めたと報告し,手術合併症を避けるために癒着が進行する前の可及的早期の手術が望ましいと述べた.蜂須賀ら8)は,本邦の成人例EPSの9例をまとめた報告で,診断時無症状であっても肺膿瘍や胸腔内穿破などの重篤な合併症を発症した症例もあるため,EPSであっても速やかな摘出術が望ましいと述べた.
一方,Alsumrainら9),Songら10)は,診断時に無症状であり経過観察が選択された成人PS症例のほとんどが追跡期間(中央値:Alsumrain:14例-19カ月,Song:33例-15カ月)無症状のままであったことから,追跡期間が短いという限界を述べた上で無症状例の保存的加療を推奨している.
[Bronchogenic cyst, Bronchial atresia]
BCの成人例の報告11)でも,病変部の繰り返す感染や悪性腫瘍発生の可能性を理由に切除を推奨する意見が多い.また,BCでは自覚症状や感染症の既往がなくとも不顕性感染を繰り返すことで周囲組織と高度な癒着を呈していることがあり,このために病変の切除が不完全となって再発を来したとする報告もある12).また,一般呼吸器外科では,感染を繰り返して嚢胞サイズが次第に増大する症例をしばしば経験する.この様な背景により,病変の完全切除のために可及的早期に手術を行うべきであるとする意見が多い13).一方で,BAに関しては無症状例に対しては経過観察が可能とする報告14)もある.
[悪性腫瘍の合併]
CCLDにおける肺悪性腫瘍合併の可能性は,肺病巣の感染制御という目的とともに,予防的に切除が勧められる理由の一つである.
Casagrandeら15)は肺悪性腫瘍を合併したCCLD 168例(小児例:76例,成人例:92例)のシステマティックレビューにおいて,病理組織型は,小児例はpleuropulmonary blastoma(PPB):32例が主体で,bronchioloalveolar carcinoma(BAC):17例,rhabdomyosarcoma:13例,adenocarcinoma(AC):4例などが続き,成人例はAC:20例,BAC:20例,squamous cell carcinoma:14例,bronchial carcinoid:7例と報告した.また,CCLDのうち悪性腫瘍を合併しやすいのは,小児においてはCPAM typeⅠ,成人においてはBCである可能性を示唆した.本邦では小児例の悪性腫瘍合併の報告は無い3)が,Casagrandeら15)は,CCLDは年齢によらず悪性腫瘍発症の可能性があるため,診断次第切除を行うことが望ましいと述べている.
CCLDに肺悪性腫瘍が合併する機序は定かではないがPriestら16)は,50例の小児PPB症例を集積し,38%の症例でPPBが診断される1~42カ月前に肺内に嚢胞性病変が確認されたと報告し,Uedaら17)は,嚢胞性病変が構造的に発癌の母地になる可能性を示唆している.この様な報告に基づくと,先天性嚢胞性病変を無症状の時期に予防的に切除することは,PPBをはじめ悪性腫瘍の発症予防,あるいは早期発見・治療の点で有効と思われる.
その一方,Papagiannopoulosら18)はCPAM病変の切除が必ずしも遠隔期のPPB発症を阻止するものではないことも示唆している.これは,病変境界が不明瞭なCPAMにおいて,肺病変切除後に嚢胞性病変が遺残した場合にはそれらを母地として発癌する可能性が考えられるからである.この様な理由からCPAMを含むCCLDに対しては病変の完全切除のために部分切除術や区域切除術ではなく,肺葉切除術が勧められている19).また,切除後は悪性腫瘍発症に備えて長期のフォローアップが推奨されている.
以上より,一般呼吸器外科医の認識では,①病変を取り除くこと,②確定診断を得ること,③感染症発症や悪性腫瘍合併のリスクを減らすことを目的として,小児例・成人例いずれに対しても完全切除を,しかも診断後は比較的早期に行うことを推奨する意見が多い.一部のPSやBAでは無症状例に対する経過観察の報告もみられるが,いずれも単施設での後方視的研究のため,今後の長期的な経過の報告や,ランダム化比較試験などの研究が待たれる.
III.当科での手術経験
著者らの施設では,2010年1月から2022年3月までに,CCLDの小児7例(18生日~6歳5カ月)と,成人9例(18~48歳)の計16例に対して,肺葉切除術または区域切除術を行った(表1).小児例は,呼吸器外科専門医の中で小児呼吸器外科手術に習熟した者が執刀した.
小児7例のうちCPAMが4例,IPSが3例で,成人9例のうちCPAMが4例,IPSが5例であった.小児例の手術時の平均年齢は2.6歳で,全例が有症状であった.成人例は手術時の平均年齢は31.4歳で,有症状例が5例(55%),健診で発見された無症状例が4例(45%)であった.
手術アプローチは,VATSが小児例で7例中5例に,成人例では9例中8例に用いられた.VATSからの開胸移行はいずれの群も無かった.16例中14例に病変の完全切除のために肺葉切除術が行われ,成人例の2例には区域切除術が行われた.小児,成人群間で出血量に有意差はなく,両群とも輸血を必要としなかった.また,手術時間,術後胸腔ドレナージ日数,術後在院日数などの術後パラメータに関しても有意差を認めなかった.胸腔内の癒着は両群とも半数程度あり,術後合併症は両群に各1例(小児例:術後肺瘻で再手術,成人例:膿胸)認めた.周術期死亡,在院死亡は両群とも認めず,全例が全快退院した.遠隔期を含め,悪性腫瘍の発生は無かった.
IV.一般呼吸器外科医からみたCCLDの手術
[手術時期に関して]
一般呼吸器外科において,CCLDの手術適応や至適手術時期に関して,小児例・成人例とも明確なコンセンサスはない.しかし,一般論としては呼吸器障害や呼吸器感染症など有症状であることが手術の絶対適応と認識されている20).一方で,無症状例に対してもCCLD病変を母地とした感染症や悪性腫瘍発症のリスク回避のために手術を選択すべきという意見もある.また小児では正常残存肺の発育障害を防ぐため,乳幼児早期までに手術を推奨する意見もあるものの21)22),低侵襲性や,側弯症・胸郭変形などの長期合併症の観点からVATSを推奨すべきとし,これを安全に行うために体格が大きくなった2歳以降まで手術を遅らせるべきとする報告23)もある.
[VATSの小児への適応や工夫]
小児例においても術後のドレナージ日数,在院日数,術後疼痛,術後合併症,長期合併症などで開胸と比べてVATSの有用性を述べる報告24)が多い.またVATSは胸壁に対する侵襲が低いため,将来の側弯症や胸郭変形を軽減する可能性があり小児例へ特にVATSを適応すべきとする意見もある.しかし,小児のVATSはデバイスが体格に比して大きく,また胸腔が狭いために操作性が劣ることなど,適応を困難とする問題点があり,それらを克服するために様々な工夫が報告されている.
すなわち,①3mm vessel sealer (JustRight Surgical ; Louisville, CO)や5mm surgical stapler (JustRight Surgical ; Louisville, CO)25)などの小型細径のデバイスを用いること,②8K超高解像度細径内視鏡を使用して細径スコープでも明瞭な視野を保つこと26),③摘出するトロッカー創の拡大を防ぐために切除肺を胸腔内で切離・破砕して摘出する方法27),④後縦隔の視野確保のための追加ポートを挿入する方法28),⑤葉間形成や区域間形成時の肺実質の切離をステープラーではなくより小型のベッセルシーリングデバイスや超音波凝固切開装置を用いて行う方法29),などである.いずれも,狭い胸腔内での操作を安全に確実に行うための工夫である.当科でもポートの一つを肋骨弓下から横隔膜付着部内を通る経路で留置し,そのポートからステープラーを挿入し,狭い胸腔内での操作性を高める方法などを開発し,小児例へのVATSの適応を広げる工夫を行っている.
[ロボット支援手術の可能性]
ロボット支援手術(Robot-assisted thoracoscopic surgery:RATS)は,一般呼吸器外科領域では2018年に,肺癌に対する肺葉切除術と,縦隔腫瘍切除術が保険適応となり,その後,区域切除術,胸腺摘出術まで広がり,現在急速に普及している.
Liら30)は,肺葉切除術や区域切除術を行った小児例を,手術アプローチごとにRATS群(29例)とVATS群(42例)で比較検討し,手術時間(ドッギング時間を除く),術中出血量,術後に38℃以上の発熱を認めた症例の割合で,RATSの方が良い成績で,開胸移行率,術後胸腔ドレナージ日数,術後在院日数,創部の整容性は両群とも差がないことを報告している.また,NASA-TLX (The original National Aeronautics and Space Administration Task Load Index)という外科医の作業負荷を評価する項目でRATSはVATSよりも優れ,患児と外科医の双方に有益であると述べている.
小児外科領域では現在,縦隔腫瘍切除術,腎盂形成術,胆道拡張症手術などにロボット支援手術が保険適応されており,現時点で限られた施設でのみ施行されているが,小児呼吸器外科領域でも今後普及していくものと予想され,さらにCCLD小児例への適応も拡大されるものと考える.
V.おわりに
CCLDの治療においては,一般呼吸器外科施設では,手術の絶対適応を感染に伴う有症状例とする施設も多い20).一方,小児外科においては無症状例でも感染症や悪性腫瘍の合併を避けるために早期に病変を切除することが望ましいとする意見が多くみられる.CCLDに対する手術適応基準は,一般呼吸器外科医と小児外科医の間で認識が必ずしも一致しているとは言えず,今後追加される知見に基づいて議論が必要であろう.
また,手術アプローチに関しては,VATSが普及した現在,成人例のCCLDの手術ではVATSが多くの症例で行われている.小児例は成人例にも増してVATSの低侵襲性が有益となるが,デバイスのサイズの問題が存在する.しかし,最近はデバイスの小型化やスコープの開発により小児VATSの精度が高まってきており,VATSによる手術例も増えてきている.小児VATS技術のさらなる進歩が期待されるところである.RATSは,一般呼吸器外科では確固たる地位を築きつつあり,いずれCCLDの手術もRATSで広く行われるようになると思われるが,小児ではデバイス等のハード面の開発を今しばらく待つ必要がありそうである.
利益相反:なし
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