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日外会誌. 124(6): 507-513, 2023

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特集

先天性嚢胞性肺疾患のup to date

7.先天性嚢胞性肺疾患の自然経過―非手術症例から得た知見と今後の課題―

1) 国立成育医療研究センター 外科
2) 国立成育医療研究センター 呼吸器科

金森 豊1) , 肥沼 悟郎2)

内容要旨
先天性嚢胞性肺疾患(以下,本疾患)は出生前診断される症例が増加している.その中で生後早期には無症状で経過する症例が少なからず存在する.このような症例に対して手術治療が必要かどうかは議論があり統一した見解は得られていない.われわれは自施設での約20年間の経験をまとめた.出生前診断された本疾患は136例あり,そのうち33例は生後早期に呼吸障害などの症状を呈したために手術治療を施行した.また出生時には呼吸障害が軽度か全くなく,生後6カ月以降に定時手術治療を施行した症例が88例あった.定時手術予定としていた1例は生後3カ月時に嚢胞の増大をみたために早期手術となった.残る14例が保存的に経過をみた症例であったが,そのうち1例は3歳時に運動時の咳嗽が出現し肺炎所見がみられたために手術治療を行った.新生児期に手術治療を選択しなかった103例のうち症状が出現して手術治療となった症例は2例(2%)であった.これまでに報告されている文献からも,出生前診断された無症状本疾患の小児期における呼吸症状出現率は高いものではなく,病変の小さなCPAMや気管支閉鎖症は手術をしないという選択が可能と考えられている.しかしこれらはすべて後ろ向き研究なので今後は前向き研究で症例を重ねての検討が必要である.また成人期に症状が出現する例や発がんの可能性のある病変が存在するのでこれらを見逃さないように慎重な経過観察とスムーズなトランジションによる長期的なフォロー体制の構築が望まれる.

キーワード
先天性嚢胞性肺疾患, 出生前診断, 先天性肺気道奇形(CPAM), 気管支閉鎖症, 肺分画症

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I.はじめに
外科疾患に対する出生前診断が胎児超音波検査や胎児MRI検査の普及により可能になって数十年が経過した.その歴史の中で,胎児診断の結果,疾患の自然経過が明らかになり治療方針が確立した病態がある.先天性水腎症(腎盂尿管移行部狭窄症)は,出生前診断が行われる以前には生後腎瘻を置いて腎盂内圧を減圧することが一般的に行われてきたが,出生前診断症例を数多く経験する中で多くの軽症例が生後には自然治癒することが明らかになり,腎瘻を置く症例や手術治療を選択する症例が激減した.翻って先天性嚢胞性肺疾患についてはその原因疾患の多様性や幼少時の呼吸機能の評価の困難性・発がんの問題・手術による侵襲の大きさや合併症の恐れ,などの多くの問題から残念ながらいまだ自然経過が明らかになっておらず治療方針については多くの議論がある.この稿ではわれわれの施設での経験を紹介し,文献的考察から問題点を明らかにして今後の方向性を考えたい.

II.国立成育医療研究センター(以下,当センター)における経験(図1
1)当センターでの経験症例の内訳
当センターが開設された2002年2月から2022年5月までの約20年間に経験された先天性嚢胞性肺疾患は220例あった.その内訳は,出生前診断症例が136例,生後診断症例が84例であった.生後診断された症例は,肺炎などの感染による発症例が70例,呼吸障害を契機に生後早期に発見された症例が7例,偶然発見された症例が7例で,そのうち67例が手術を施行された.
2)当センターでの出生前診断症例の治療方針
当センターでは,生後早期に呼吸障害が出た症例は新生児期に手術を選択し,それ以外の症例については,(1)明らかに肺葉外肺分画症と考えられる症例,(2)明らかに気管支閉鎖症と考えられ肺実質の透過性亢進・過膨張のみがみられる病変の小さな症例,(3)病変が多発性で両肺にわたり分布する症例,(4)両親が手術をしないという選択をした場合,などを非手術・経過観察として対応し,それ以外を6カ月以降の定時手術とする方針である.また非手術症例と判断した場合でも,両親の手術希望があれば手術治療を選択することも考慮した.
3)出生前診断症例の治療選択の実際
出生前診断がなされた136例について詳しくみると,生後早期に呼吸障害や縦郭偏位などにより新生児期に手術治療が選択された症例が33例,定時手術として生後6カ月以降に手術が施行された症例が88例,定時手術が選択されたが病変の増大により生後3カ月で手術となった症例が1例(図2),非手術症例が14例であった.
4)非手術を選択した14症例の自然経過
14例の内訳は,気管支閉鎖症7例,肺葉外肺分画症5例,多発性症例2例であった.このうち結果的に手術を選択した症例が1例あり,3歳頃から運動時の咳嗽が出現し,4歳児に撮影した胸部CT検査で肺炎のような浸潤像が出現し手術治療を選択した(図3).
この結果からは出生前診断症例136例の中で,定時手術を選択した89例のうち1例に病変増大により早期手術治療を施行,また非手術とした14例のうち1例で呼吸症状が出現して手術となった.すなわち手術をしないで経過をみていた103例中手術治療を選択する必要性が出たのは2例(2%)であった.

図01図02図03

III.考察
1)当センターの結果から
当院で管理した先天性嚢胞性肺疾患は,開設当初は生後診断例が多かったが次第に出生前診断症例の比率が増加し最近ではその多くが出生前診断症例となっている1).この事実は胎児の形態異常に対する産科医師の診断能力が向上したことを示している.その結果,胎児期に病態の重症度がある程度把握できるようになり,生後早期に手術が必要な重症症例に対する周産期対応がスムーズに行われるようになった.一方で,肺葉内肺分画症や,病変の小さなCPAM(congenital pulmonary airway malformation),気管支閉鎖症など生後早期に手術が必要でない症例についての治療方針が問題となってきている.これらの症例は多くは生後早期には呼吸障害がなく無症状で経過するために手術治療が必要かどうかの判断が難しい.しかしこれまでは多くの施設で,出生前診断症例に対して症状の有無にかかわらず乳児期に手術治療を施行してきたと考えられる.当センターでは,開設以来おおむね一定の治療方針を維持して管理を継続してきたが,無症状の疾患の中でおそらく症状を呈する確率が低いであろう,肺葉外肺分画症や病変の小さなCPAM,気管支閉鎖症を非手術症例として扱ってきた.この方針が症例の選択によるバイアスがかかっていることを前提として考察すると,非手術症例の2%に手術が結局必要となったという結果であり,小児期に限って言えば手術が必要となる無症状症例はあまり多くないということを示唆している.もちろん生後1歳以降に症状が出現する症例がある程度存在する可能性は過去の論文からも想像ができるので,この考えは科学的な判断とは言えないだろう.また呼吸器症状が出現した症例に関しては手術治療を進めることは多くの施設でコンセンサスと考えられ乳児期に手術を進める論調が主流である2)3)
2)論文による考察
2009年にStantonらが報告したmeta-analysis4)によると1,070例の症例を集積し,そのうち840例(79%)が胎児診断例で中絶や胎内死亡が68例あり,最終的には931例が生存出生していた.163例は新生児期に手術が施行されていた.出生前診断症例のうち無症状で乳児期まで非手術となった症例は505例あった.そしてその症例のうち16例(3.2%)は乳児期に症状が出現した.乳児期以降にも症状が出現した例があり,それらを加味すると手術施行年齢は中央値で10カ月であり,緊急手術が158例に施行されていた.また有症状例の手術は無症状例の手術に比して2倍以上の術後合併症のリスクがあったと報告している.結論として,無症状症例に症状が出現する確率は低いが,治療するとしたら10カ月以前に定時手術で施行することが望ましい,また小さな病変は保存的にみられる可能性がある,としている.この報告以外にも66例の出生前診断例のうち44例で保存的に経過をみているという報告5)があり手術せずに経過しているという.経過期間が3カ月から144カ月と幅があり手術となる症例が今後出てくる可能性はあると思われる.またCrissらの報告6)によると,39例の無症状例のうち13例に手術治療が施行され,9例は感染が契機となり,2例は咳嗽により,2例は家族の希望により手術となっていた.無症状例に呼吸器症状が出る確率は決して低くないと指摘しており,病変が大きい例,生後診断例は手術になる可能性が大きく,また年齢が進むとともに症状が出てくる確率が上がるのでは,とも考察している.
これらの論文を参考にすると,出生前診断された先天性嚢胞性肺疾患で生後無症状のもののなかで,病変の小さいCPAMや気管支閉鎖症は非手術として経過観察とし,フォロー中に呼吸器症状が出た場合には速やかに定時手術を行う,というのが無難な方針であろう.今後はこのような方針での詳細な前向きの検討が必要と考える.
また,比較的大きな嚢胞性病変については,PPB(pleuropulmonary blastoma)type 1の可能性を考慮する必要があり,併存する悪性腫瘍の家族歴などを参考にして一層慎重なフォローが必要となり,場合によっては原因遺伝子であるDicer1遺伝子変異の検索をする必要がある7).またCPAM type 1に関しても,adenocarcinomaの発生が報告されており,新生児期に発症したとの報告8)も最近出されている.また,この病態についてKRAS遺伝子変異が関与しているという興味ある報告9)もありさらなる情報の蓄積が必要である.
3)成人例での検討
成人呼吸器外科疾患として先天性嚢胞性肺疾患を治療した報告は症例報告が散見され,感染原因として結核やアスペルギルスなども存在すること10)や超音波検査が有効であった例11),胸骨後の痛みという特異な症状で発症した例12)などがある.またその画像上の特徴を報告した文献もみられる13).成人CCAM(congenital cystic adenomatoid malformation)症例を61例文献からreviewした報告14)があり,7例が気胸で発症,21例が感染症状,8例に悪性腫瘍が関連していたとしている.この結果から,多嚢胞性病変を,特に下葉に認めた場合には先天性嚢胞性肺疾患を疑うように指摘している.他にも,先天性嚢胞性肺疾患の存在を成人胸部外科医に啓蒙する論文15)16)が出ており,いまだ十分にこの疾患群が成人胸部外科医には認知されていない印象である.しかし,これまでにも先天性嚢胞性肺疾患のなかに悪性腫瘍を発症する例があることは指摘されており,Casagrandeら17)は2016年にsystematic reviewにより小児期,成人期それぞれについてその特徴を報告している.他にもCCAMの1%ほどにadenocarcinomaが発症するという推察をしている報告18)もあり,この疾患群についての周知・啓蒙を小児外科医から発する必要性を感じており,また無症状例についての長期フォローとして小児期から成人期へのフォローに関するトランジション体制の確立も望まれる.

IV.おわりに
先天性嚢胞性肺疾患症例について当センターの治療経験をまとめて報告した.特に生後経過観察とした症例についてその後の経過の特徴を提示した.さらに文献的考察を行って,今後明らかにすべき問題点をまとめた.

 
利益相反:なし

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文献
1) Watanabe T: Perinatal natural history and treatment of congenital lung malformations in prenatally diagnosed naonates. Sago H, Okuyama H, Kanamori Y (eds.) Congenital cystic lung disease. Springer Nature Singapore, Singapore, pp57-62, 2020.
2) Parikh D, Samuel M: Congenital cystic lung lesions:Is surgical resection essential? Pediatr Pulmonol, 40: 533-537, 2005.
3) Style CC, Cass DL, Verla MA, et al.: Early vs late resection of asymptomatic congenital lung malformations. J Pediatr Surg, 54: 70-74, 2019.
4) Stanton M, Njere I, Ade-Ajayl N, et al.: Systematic review and meta-analysis of the postnatal management of congenital cystic lung lesions. J Pediatr Surg, 44: 1027-1033, 2009.
5) Karlsson M, Conner P, Ehren H, et al.: The natural histry of prenatally diagnosed congenital pulmonary airway malformation and bronchopulmonary sequestrations. J Pediatr Surg, 57: 282-287, 2022.
6) Criss CN, Musili N, Matusko N, et al.: Asymptomatic congenital lung malformations:Is nonoperative management a viable alternative? J Pediatr Surg, 53: 1092-1097, 2018.
7) Ohno M, Takezoe T, Watanabe T, et al.: A female case of pleuropulmonary blastoma type 1 whose pulmonary cystic lesion was followed since neonate. J Pediatr Surg Case Reports, 19: 34-37, 2017.
8) Koh J, Jung E, Jang SJ, et al.: Case of mucinous adenocarcinoma of the lung associated with congenital pulmonary airway malformation in a neonate. Korean J Pediatr, 61: 30-34, 2018.
9) Muntean A, Banias LE, Ade-Ajayi N, et al.: Neonatal congenital airway malformation associated with mucinous adenocarcinoma and KRAS mutations. J Pediatr Surg, 57: 520-526, 2022.
10) Feng A, Cai H, Sun Q, et al.: Congenital cystic adenomatoid malformation of lung in adults:2 rare cases report and review of the literature. Diagnost Pathol, 7: 37, 2012.
11) Xu W, Wen Q, Zha L, et al.: Application of ultrasound in a congenital cystic adenomatoid malformation in an adult. Medicine, 99: 49, 2020.
12) Goldsmith I, George J, Aslam U, et al.: An adult with episodic retrosternal chest pain:an unusual presentation of congenital pulmonary airway malformation- case report. J Cardiothoracic Surg, 16: 78, 2021.
13) Gorospe L, Murioz-Molina GM, Ayala-Carbonero AM, et al.: Cystic adenomatoid malformation of the lung in adult patients:clinicoradiological features and management. Clin Imaging, 40: 517-522, 2016.
14) Hamanaka R, Yagasaki H, Kohno M, et al.: Congenital cystic adenomatoid malformation in adults:Report of a case presenting with a recurrent pneumothorax and a literature review of 60 cases. Resp Med Case Reports, 26: 328-332, 2019.
15) Shanmugam G: Adult congenital lung disease. Eur J Cardio-thorac Surg, 28: 483-489, 2005.
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