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日外会誌. 124(6): 478-484, 2023

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特集

先天性嚢胞性肺疾患のup to date

3.分類に関する最新の知見1.画像診断の見地から

神奈川県立こども医療センター 放射線科

野澤 久美子

内容要旨
先天性嚢胞性肺疾患の代表的疾患である気管支閉鎖症,肺分画症,先天性肺気道奇形(CPAM)の画像所見について解説する.胎生期の肺の発生過程における気道閉鎖が嚢胞病変の形成や気腫様変化に寄与することが知られており,気管支閉鎖症やCPAM type2,肺葉内肺分画症の肺病変は画像所見や組織学的所見に類似点が多い.
画像診断は,疾患の診断だけでなく,患児の管理や治療方針決定に重要で,造影CTが中心的役割を果たす.病変の部位,数,肺構造の異常や透過性,血管構造,気道(気管支)の詳細な評価とともに,縦隔や正常肺への圧排の有無や程度,他の合併疾患の有無を評価する.肺分画症の診断には異常動脈の有無がポイントであるが,画像検査で認識困難な場合が稀にあり,局在や病変の性状などと総合的に判断する.
後天性疾患との鑑別が難しい症例も存在するが,疾患の成因や病態を理解し,適切な治療方針を検討することが重要である.

キーワード
先天性嚢胞性肺疾患, 画像診断, 肺分画症, 気管支閉鎖症, 先天性嚢胞性肺気道奇形

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I.はじめに
小児に生じる嚢胞性肺疾患は先天性と後天性に大別され,先天性嚢胞性肺疾患は肺の発生異常のspectrumとして捉えられる1)2).近年,胎児診断の発達により,出生前に診断される先天性嚢胞性肺疾患が増え,感染などによる修飾を受けない画像所見や病理像による研究が進み,発生機序や鑑別診断,臨床像が整理されつつある3)4)
肺内に嚢胞病変を有する多くの疾患が含まれるが,本稿では,先天性嚢胞性肺疾患の代表的疾患である気管支閉鎖症,肺分画症,先天性気道肺奇形の3疾患について,発生機序や臨床所見を踏まえて特徴的な画像診断を解説し,鑑別のポイントや注意点について述べる.先天性疾患と鑑別を要する後天性疾患についても概説する.

II.先天性嚢胞性肺疾患の画像診断
先天性嚢胞性肺疾患の画像診断は,疾患の診断や治療方針決定に重要な役割をもつ.撮像時間が短く空間分解能に優れるCTが検査モダリティの主軸となる.嚢胞などの肺病変や肺透過性,気管支の形態,大血管や肺動静脈などの血管異常の有無,縦隔構造や同側肺・対側肺への圧排の有無や程度,合併する他病変の有無について評価する.血管構造の評価が必要なため,造影CTでの評価が望ましい.肺分画症の診断に重要な異常動脈の有無については,近年では侵襲性の高い血管造影は推奨されない4).CT技術の進歩により,1mmほどのスライス厚の画像を用いることで新生児や乳児でも区域気管支や亜区域気管支の同定が可能となり,閉鎖の有無や粘液栓の評価が向上した.血管や気管支の詳細な評価には,薄いスライス画像での多断面再構成画像の活用も有用である.
紙面の都合上,本稿には含めていないが,胎児期の画像診断はスクリーニング検査としての超音波検査を主体に普及し,近年は胎児MRI検査が行われる機会も増えている.胎児診断は分娩管理,両親へのカウンセリング,出生後の予後予測に有益な情報をもたらすことが知られている.しかし,一部の典型的な症例を除くと,画像所見や経過がオーバーラップする症例を多く含むため,胎児期の先天性嚢胞性肺疾患の鑑別には限界がある.
MRIやUSを,新生児・乳児期の診断に活用することは被ばく低減に有用である.どちらも肺や気管支の詳細な評価には限度があるため,補足的な役割にとどまることが多いが,近年MRIで縦隔や血管構造だけでなく肺評価に用いる撮像法が開発されており,今後更なる技術の進歩により臨床応用の拡大が期待される5)

III.気管支閉鎖症(Congenital bronchial atresia)
胎生期に気管支が閉塞することによって生じると考えられる疾患で,末梢肺に過膨張性病変(pulmonary hyperplasia type of maldevelopment)と嚢胞性病変(microcystic parenchymal maldevelopment)を生じる.後述する先天性気道肺奇形2型と組織学的に類似する所見が一部にみられることがあり,気管支閉鎖所見を捉えられない場合は両者の鑑別は困難である.閉鎖部位よりも末梢側の気管支樹は形成され,過膨張性変化の成因にKohn孔やLambert管などの側副換気の関与が考えられている6)
閉鎖した気管支の支配域に過膨張性変化と嚢胞性病変が生じる(図1図2).嚢胞性病変は数mm~2cm前後が多く,過膨張性変化が主で嚢胞病変は乏しいものから,嚢胞病変が主体なものまで肺病変の所見は様々である.区域気管支の閉鎖が多く,亜区域気管支レベルやより末梢レベルにも生じ得る.しばしば多区域に認められる7).CTで透過性亢進域や嚢胞病変の局在と範囲,閉鎖気管支の有無について詳細に評価する.区域気管支や亜区域気管支について注意深く観察することが求められるため,1~2mm以下のthin slice画像や多断面再構成画像を利用する.閉鎖気管支の評価には,病変(透過性亢進域や嚢胞)が存在する区域の末梢側気管支を肺門側に追跡し,区域気管支や葉気管支と連続するかどうかを確認すると判断しやすい.新生児期では特徴的な過膨張性変化を示さず,含気不良域として認められることもあり注意を要する.分葉不全や過剰分葉などの分葉異常をしばしば伴うため,術前情報として重要である.
気管支の閉鎖部より末梢に生じる気管支粘液栓は,診断に重要な所見の一つであるが,サイズが小さく画像所見で認識困難な場合が少なくない.造影CTでは造影増強効果の乏しい,類球形や紡錘形の腫瘤様構造として認められ,大きさは様々である(図2).気管支閉鎖部の末梢側に生じるため,肺動脈に隣接する構造として認められることが多い.MRIではT2強調画像で高信号を示す.単純CTでは併走する血管との分離同定が困難なことが多い.
胎児診断が普及する以前は,肺炎などの感染を契機に,あるいは偶発的に診断されることが多く,肺炎を契機に診断されるといった臨床像は,肺葉内肺分画症や先天性気道肺奇形2型と共通で,以前はこれら疾患の中に気管支閉鎖症が含まれていたとの報告があり8),気管支閉鎖の有無をCTで評価することが鑑別に重要である.
生後進行性の呼吸障害を特徴とする肺葉性肺気腫と異なり,気管支閉鎖症では出生後病変が増大することは少ない.外科的治療の適応や時期については,児の呼吸症状や全身所見,病変の大きさや数,縦隔構造や正常肺への圧排の程度などを基に検討される.治療方針の選択に定まった基準はまだ確立されていないが,病変が小さく感染などの可能性が低いと考えられる症例では,手術をせずに経過観察という選択肢も検討される.

図01図02

IV.肺分画症
正常な肺芽とは異なる過剰な肺芽から発生し,正常気管支と交通しない気管支構造を有する肺組織である.正常肺と病変が胸膜で隔てられる肺葉外肺分画症(10~25%)と,病変部・非病変部が同じ胸膜に覆われる肺葉内肺分画症(75~90%)とに大別され,両者の区別はCTで比較的容易である.肺葉内肺分画症は,液体を含む嚢胞病変や含気不良域,気腫様の透過性亢進域など多彩な所見を呈する.嚢胞病変や気腫様透過性亢進域は,気管支閉鎖症で認められる肺病変と画像所見,病理所見とも類似することが多いことが知られている.
画像診断のポイントは,異常な肺構造と体循環から病変部に迷入する異常動脈である(図3).体循環からの異常動脈は,胸部大動脈あるいは腹部大動脈から分岐する胎生期の遺残血管であることが多いため,造影CTは上腹部も含める必要がある.静脈還流は様々で,肺葉内肺分画症では左房あるいは肺静脈に還流することが多く,肺葉外肺分画症では下大静脈や奇静脈などの体循環系や門脈に環流することが多いとされる.肺葉外肺分画症で肺静脈への還流を認めることもある.
異常動脈が画像検査で認識できない症例も少数例であるが経験する(図4).肺葉内,肺葉外のどちらも,大多数が肺底部や下葉肺底区縦隔側に存在するため,そのような局在の病変では分画症の可能性を念頭に診断を進める.肺葉内肺分画症は肺炎を合併する可能性が高いため,外科的切除が行われることが多い.肺葉外肺分画症は肺炎の合併がほとんど無く,自然退縮を示すこともあるため9),無治療で経過観察される場合もある.病変が大きく正常肺への圧排が強い場合や異常動脈の血流増多による心不全を伴う場合は,新生児期に手術適応となる.肺葉外肺分画症が捻転を生じ,突然の胸痛や急性腹症で発症し,出血壊死を伴う腫瘍性疾患を疑われることがある10)

図03図04

V.先天性気道肺奇形(Congenital Pulmonary Airway Malformation, 以下,CPAM)
胎生期の肺形成過程において,部分的に気道や肺の発生が停止することにより肺内に嚢胞性病変が形成される過誤腫様病変とされる.発生停止が生じる発生段階や嚢胞の大きさ,病理像を基に,type 0:acinar dysplasia or agenesis,type 1:large cyst type(径3~10 cm),type 2:medium cyst type(径0.5~2.0 cm),type 3:small cystic or solid type,type 4:peripheral acinar cyst typeと分類される.
約7割がtype 1で,通常2cm以上の一つから複数の大きな嚢胞とその周囲の小さな嚢胞からなる病変として認められる.病変が大きく呼吸障害が強いため,出生後早期に手術適応となることが多い(図5).10~15%を占めるtype 2は,type 1よりも小さな嚢胞からなる病変で,組織学的に肺葉内肺分画症や気管支閉鎖症と類似の所見がしばしば認められることから,発生段階で生じた気道閉鎖を病因とした奇形シーケンスの一つとしてとらえる病因論も提唱されている1).Type 3は微小な嚢胞の集合からなる腫瘤を形成するため,CTやMRIでは肺葉あるいは肺全体におよぶ充実性腫瘤として認められる.Type 4は肺胞嚢の発生段階における形成異常で,通常は胸膜下レベルの末梢に薄い壁で囲まれた大きな嚢胞を形成する.大部分が気体で置換された場合に気胸と間違えられることがあり注意を要する.

図05

VI.後天性小児嚢胞性肺疾患との鑑別
後天性疾患にも様々な疾患が含まれるが,診断や治療方針の決定に注意を要する疾患について述べる.
1.肺炎後肺嚢胞(Pneumatocele)
肺炎や肺膿瘍により肺に壊死性変化が生じ,炎症改善後に空洞が形成された状態を示す.多数の嚢胞を形成する場合があり,1回の画像所見のみでは先天性嚢胞性肺疾患の感染合併例との鑑別は難しい.肺炎後肺嚢胞の多くは自然に消退するため,不必要な外科的切除を避けなければならないが,嚢胞病変が母地となり感染を繰り返す場合は外科的切除が必要となる.
2.胸膜肺芽腫(pleuropulmonary blastoma;以下,PPB)
乳幼児の肺や胸膜に発生する稀な悪性腫瘍で,壁の薄い嚢胞のtypeⅠ(図6),充実性腫瘍のtypeⅢ,typeⅠとⅢの中間のtypeⅡ(嚢胞と充実成分の混合)と分類される11).TypeⅠは外科的に完全切除されれば予後良好であるが,typeⅢは予後不良である.TypeⅠは組織学的にも画像所見もCPAM 4型に類似点が多く,両者は連続した病変である可能性が示唆されている12).PPBは経時的にtypeⅠからⅢに移行することが知られているため,CPAM type4あるいはPPB typeⅠが疑われる場合は,完全切除が適応となる.

図06

VII.おわりに
先天性嚢胞性肺疾患の代表的疾患の画像所見について,診断のポイントや鑑別点について解説した.近年の研究により疾患概念や分類について整理されてきた部分も多いが,治療方針を含め,まだ検討すべき課題も多い.肺の発生段階での気道閉鎖が嚢胞病変形成に寄与することが考えられており,画像診断では嚢胞病変を含む肺構造の評価だけでなく,気管支も詳細に評価することが重要である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 西島 英治,黒田 達夫:小児呼吸器外科の現状と課題.日小外会誌,50周年記念誌:244-249,2014.
2) Epelman M, Lee EY, Newman B:Congenital lung anomalies. Coley BD, Caffey’s Pediatric diagnostic imaging, Vol. 1(13th ed), Elsevier, Philadelphia, pp495-512, 2019.
3) 臼井 規朗:新生児・乳児の嚢胞性肺疾患.日周産期・新生児会誌,57:419-421,2021.
4) 黒田 達夫,渕本 康史,野澤 久美子,他:呼吸器系先天異常疾患の診療体制構築とデータベースおよび診療ガイドラインに基づいた医療水準向上に関する研究;先天性嚢胞性肺疾患.臼井規朗編.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「呼吸器系先天異常疾患の診療体制構築とデータベースおよび診療ガイドラインに基づいた医療水準向上に関する研究」令和4年度総括・分担研究報告書(研究代表者:臼井規朗),pp78-121,2023.
5) Nozawa K, Niwa T, Aida N:Imaging of cystic lung lesions in infants using poinwise encoding time reduction with radial acquisition(PETRA). Magn Reson Med Sci, 18: 299-300, 2019.
6) Talner LB, Gmelich JT, Liebow AA, et al.: The syndrome of bronchial mucocele and regional hyperinflation of the lung. Am J Roentgenol Radium Ther Nucl Med, 110: 675-686, 1970.
7) Ward S, Morcos SK:Congenital bronchial atresia. Presentation of three cases and a pictorial review. Clin Radiol, 54: 144-148, 1999.
8) 臼井 規朗,中畠 賢吾,銭谷 昌弘,他:先天性嚢胞性肺疾患における胎児超音波検査所見の再検討.日小放射線会誌,31: 132-137,2015.
9) Yoon HM, Kim EA, Chung SH, et al.: Extralobar pulmonary sequestration in neonates:The natural course and predictive factors associated with spontaneous regression. Eur Radiol, 27: 2489-2496, 2017.
10) Chen W, Wagner L, Boyd T, et al.: Extralobar pulmonary sequestration presenting with torsion:a case report and review of literature. J Pediatr Surg, 46: 2025-2028, 2011.
11) Messinger YH, Stewart DR, Priest JR, et al.:Pleuropulmonary blastoma:A report on 350 central pathology-confirmed pleuropulmonary blastoma cases by the international pleuropulmonary blastoma registry. Cancer, 123: 276-285, 2015.
12) MacSweeney F, Papagiannopoulos K, Goldstraw P, et al.: An assessment of the expanded classification of congenital cystic adenomatoid malformations and their relationship to malignant transformation. Am J Surg Pathol, 27: 1139-1146, 2003.

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