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日外会誌. 124(6): 469-470, 2023

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若手外科医の声

悩める若手女性外科医達へ

兵庫県立こども病院 小児外科

辻 恵未

[平成26(2014)年卒]

内容要旨
子育て中の女性小児外科医が,外科医であり続けるための自身の精神論を述べる.

キーワード
小児外科, 女性外科医, エネルギー, 夢

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I.はじめに
私は現在卒後10年目の小児外科医である.ライフステージの変化に応じて,仕事に対する考え方,価値観は少しずつ変化してきた.まだまだひよっこ外科医だが,そんな外科医人生を振り返り,子育てをしながら外科医を続けるための精神論とこれからの夢を綴らせていただこうと思う.

II.小学生の頃の夢
私はキリスト教教育の小学校に通っていた.小学校3年生の頃,カメルーンで現地の支援活動をされていたマ・スール末吉(修道女)のお話を学校で聞く機会があった.その時にマ・スールが見せてくださった写真の中のお腹が大きなカメルーンのこども達の姿が,小学生の私には衝撃だった.栄養失調なのにどうしてこんなにお腹が大きいのだろう? 同じくらいの年齢なのに,すごく大変な暮らしをしているようだ…何か私にできることはないだろうか? その頃から私の夢は「医師になってアフリカでこども達の支援をすること」になった.

III.エネルギーを出し切れ
医師になるという夢が叶い,希望する小児外科に進み,昨年,小児外科専門医も取得した.プライベートでは卒後6年目に結婚し,現在は2歳男児の母となった.小児外科医として最善を尽くしたいという思いは変わらないが,仕事に費やせる時間は減ってしまった.親バカで恐縮だが,わが子がとってもかわいい.何をしてもかわいくて,とにかくこの幼少期の貴重な時間を長く一緒に過ごしたいと思う.一方で,外科という分野は患者のそばにいてなんぼ,の世界だと思っている.外科医の勤務体系に関しては「時短かフルタイムか」が重要なのではなく,「時間外に働けるか」が重要だと育休から臨床復帰して感じている(2024年4月より医師の働き方改革により時間外勤務の上限規定が設けられるが).そして気がつけば,自分の限られた時間と限られたエネルギーをいかに仕事とプライベートに分散しようか,と考えるようになっていた.そんな時に,ある本で以下の言葉を目にした.『エネルギーは出し切れ.充電するには時間などかからないし,使えば使うほど充電されるものである.』この言葉にハッとさせられた.時間は制限があるかもしれないが,エネルギーは分散する必要がないのだ.実際,やるべきことが多くて無我夢中に過ごしている時間の方が達成感があり,その達成感が更なる物事への意欲を生み出すと感じる.仕事でも自宅でも,常にエネルギーは出し切ろうと思っている.

IV.恵まれた環境
私は,自分自身がとても恵まれた環境にいると実感している.小児外科志望であったがどこに行けば良いか分からず路頭に迷っていた卒後3年目の夏,母校の富山大学第一外科芳村直樹教授が,ご自身の出身である神戸大学第二外科(心臓血管外科,呼吸器外科,小児外科)の医局を紹介してくださった.そのご縁で神戸大学小児外科に入局を決意,友人も親戚も一人もいない関西に初めて来たのが今から6年前になる.気がつけば,友人,家族ができていた.そして,ずっとやりたかった小児外科診療に携わっている.所属している神戸大学小児外科,勤務先の先生方は時間の制約のある私の働き方に大変理解の深い方ばかりで,感謝しかない.私の代わりに時間外勤務をして下さっている医師がいる.そしてその医師にも家族がいるのだ.また,日々の自身の家族の支えにも感謝している.周囲の理解と協力のもとで私の小児外科医人生は成り立っている.

V.子どもとの時間と仕事の時間
前述の通り,私は子どもと少しでも長く一緒にいたいと思う.しかし,子どもにも子どもの人生がある.フランスでは育休制度を3年に義務化した際に,子どもの言語発達の低下がみられたというデータがあるそうだ.日本で昔から言われている3歳児神話(子どもが3歳になるまでは母親は子育てに専念すべき)は,子どもにとって必ずしも良いことではない可能性があるということだ.また,親が仕事にやりがいを感じているか否かが子供の発達に影響する,という話も聞く.つまり子どもの観点からも,親がずっと一緒に過ごすより,親は自分が打ち込める仕事についていることは良いことなのかもしれない.少なくとも私はそう信じて,仕事をしている.

VI.今の夢
過去の自分が今の自分をつくっている.そして,今の自分が未来の自分をつくる.思考と言葉は現実化する.私の今の夢は「胎児も診られる小児外科医になること」だ.小学生の時に抱いた夢とは変わった.ライフステージや環境が変わると思考も変わるのだ.ただ強く思うのは,親になっても,どの年代になっても常に夢をもって歩んでいきたいということだ.
外科医は減っている.現代において正直なところ,医師としてより良い収入,労働条件を求めるといくらでも他の選択肢が出てくる.だからこそ,自分にとってのやりがい,情熱を持つことが外科医を続けるのには必須になってくると思う.価値観は人それぞれ,置かれている環境によっても変わる.正解なんてない.人によって正解は違うという方が適切だろうか.どんな環境に置かれても,私は常にエネルギーを出し切りながら,夢をもって生きていきたいと思う.

VII.おわりに
最後になりますが,今回このような貴重な執筆の機会を与えていただき,ご推薦ご指導を賜りました神戸大学小児外科尾藤祐子教授に深謝申し上げます.精神論の話になってしまい恐縮ですが,とある育児中の女性小児外科医の1例としてご参照いただければ幸いです.

 
利益相反:なし

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