日外会誌. 124(1): 128-130, 2023
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(9)「過去から未来に繋げる災害医療と外科医の役割」
1.過去から学ぶ大規模災害における外科医と被災地外科医局の役割―東日本大震災からCOVID-19まで―
1) 東北大学病院 総合外科 宮城 重人1) , 石井 正1)2) , 赤松 大二朗1) , 原 康之1) , 谷山 裕亮1) , 田中 直樹1) , 多田 寛1) , 大沼 忍1) , 石田 孝宣1) , 海野 倫明1) , 亀井 尚1) (2022年4月16日受付) |
キーワード
災害医療, 指示系統整理, 継続的支援, マンパワー, 被災地外科医局
I.はじめに
わが国は,諸外国と比較して災害が発生しやすい国土であり,1995年阪神大震災,2011年東日本大震災,2016年熊本地震,2020~2021年COVID-19と様々な大規模災害に見舞われている.こうした大規模災害発生時から長期復興期における外科医と被災地医局とくにマンパワーのある外科医局の役割・責任は非常に大きいと考えられる.
東日本大震災の際,まだ経験値の足りなかった東北大学病院および関連病院は大変な混乱の中にあった.被災には本当の意味で外科医療が必要な最初の12時間(early phase)と,そこに続く救命のカギとなる3日間(the first three days),そしてその後の長期にわたる復旧・復興期間がある.early phaseからthe first three daysでは,各地からDMAT等が応援に来ていただいたおかげもありなんとか乗り切ることができた.ただ,この大震災は,阪神大震災の時と異なり津波災害が主であった,ということもあり,軽症~中等症例(緑~黄TAG)と死亡例(黒TAG)が異常に多いという特徴があり,さらに町と交通インフラが破壊されているため,避難生活が長期化して持病を悪化させたり新たな病気を発症するケースも多い特徴があった(診療応援も長期化した).つまり,災害現地では,DMAT等の応援部隊が帰ってからの長期戦こそが本当の戦いになり,これが当時のわれわれでは経験の少なかった事例だった.当時われわれ医局員は一丸となって被災地の支援・医療活動にあたり,今回COVID-19パンデミックに際しても,震災時の体制を参考に再度医局一丸となって現在も長期にわたって医療活動にあたっている.つまり,東日本大震災の経験が現在のCOVID-19感染災害の長期対応に応用可能であった.
災害医療や感染災害COVID-19対応に関する外科医局のストロングポイントは
1.他科に比し,マンパワーがあることが多い
2.外科関連病院は多数あり,地域と直接支援調整がしやすい
3.手術の際に素早く決断し実行する,ということが身に付いている
4.外科対応,救急的対応いずれも可能で,全科当直業務的タスクを担える=全科当直業務や療養ホテルオンコールに適任
5.外科医は普段から手術等の診療においてチーム医療,多職種連携を実践しており,その調整能力は様々な職種との連携が必須である災害対応に向いている
の5項目に集約できると思われる.これらをフル活用することは,今後来ると予想される南海トラフ地震(おそらく津波被害が大きく長期対応が必要か?)に活きてくると考えられる.さらに,もう一つ長期戦のポイントとしては,被災地においては救援医=被災民となる可能性が高い,ということも忘れてはならない.これを考えると地域の互助支援のシステム作りは極めて重要と考えられる.これらを踏まえ報告する.
II.東日本大震災
震災発生時,当科医師数は大学院生も含め70名強であった.大学病院としては,「患者受け入れは断らない」という里見病院長(前当科教授)の方針のもと,空床の確保に努め,被災地で発症した急性腹症等の要手術患者や透析患者を専門無関係に積極的に受け入れた.当科は津波被災の大きかった沿岸部に,釜石,大船渡,陸前高田,気仙沼,南三陸,石巻,女川,松島,塩釜,相馬,南相馬といった関連病院があり,被害は甚大で,被災地からの救急車が列をなした.震災時,各病院には元々アルバイトの医局員を派遣していたが,交通が寸断されたため彼らはそのまま1週間ほど被災地での医療応援に尽力した(図1).交通網回復後は当時の医局長および県災害医療コーディネーターである医局OB(外科医)の指示の元,被災地アセスメントで得たデータを医局に集約し,要望に応じた効率良い医師派遣を継続的に臨機応変に行った.また被災地に置きっぱなしになりDMAT等と医療活動にあたっていたアルバイト医局員達も,交通復旧に伴いただ引き上げるのではなく,医局にいた他メンバーと順次交代させ,少しでも最前線の医師達の全科当直業務負担等を軽減していった.最前線で医療活動を継続していた公立気仙沼病院,石巻赤十字病院は関連病院の中でも特に基幹病院であり疲弊も著しかったため,大学病院としての医師派遣と別に,医局としても別枠で長期にわたって医師派遣を行った.大学医局からの医師派遣により最前線の常勤医の負担を減らす意味は大きかったと考える.
ここで注目すべきは,被災民でもある当科の若手外科医達から「より大変な地域にどこへでも支援に行きたいのだが,大学の支援枠は既に埋まっており(燃料不足の問題から定期的にバスで応援医師を送っていたため人数を決めていた)どうやって実行に移せばよいか解らない」,という申し出が多数あったことだ.仙台の復旧は比較的早かったが,沿岸部の復旧は遅れ,1カ月経ってもまだまだ人が足りなかった.そういう意味で,外科医局としての情報集約,大学と別枠での全科当直業務・現場医師後方支援用の応援医師派遣は極めて効果的であり,各地で感謝していただけた.
ただ,いくつかの問題点も浮上した.応援医師が多い最初の1週間は,現場での指示系統が混乱しやすい.指示系統を素早く確実に構築するということも大事であると認識できた(各県や医局で,災害時のコンダクターを予め決めるもしくは養成しておくとスムーズにすすむと思われる).
III.COVID-19
当初から医局員の多い当科は軽症者療養ホテルの当番を引き受けていた.2021年5月10日に宮城県より東北大学病院に対して,東北大学病院外診療所を設置しコロナワクチンの集団接種を行って欲しいという要請があり,病院長等の協議の末「東北大学(宮城県・仙台市)大規模ワクチン接種センター」設置が決まった.当科OBである総合診療科教授を中心として大規模ワクチン接種センターの実務調整を行うこととなった.ここでも若手外科医から多数支援申し出があり,外科医局員は急変対応係(統括医師というリーダー役と兼任),他科診療応援調整役,他科バッファーとして効果的に機能した.しかし長期に及ぶ支援で徐々に離脱する科が増加するのはやむを得ない事であり,徐々に調整が難航してくるという問題も当然抱えている.
IV.おわりに
災害医療長期戦においてマンパワーのある外科医局の役割は大きいと思われる.当院の情報集約+指示系統整理+継続的支援活動の経験を次に活かしていただけると光栄である.
利益相反:なし
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