日外会誌. 124(1): 86-89, 2023
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(7)「外科発展の礎―外科志望者増加のための取り組み」2.外科医志望者増加のためのマーケティング,実践,発信の取り組み
1) がん・感染症センター都立駒込病院 肝胆膵外科 脊山 泰治1) , 長 晴彦2) , 原田 匡彦3) , 三浦 昭順4) , 中野 大輔5) , 石場 俊之6) , 加藤 剛7) , 堀尾 裕俊3) (2022年4月16日受付) |
キーワード
外科志望者, Off-the-job training, 駒込病院, 外科専攻医, 外科研修
I.はじめに
当院では外科レジデント教育の伝統があったものの,新専門医制度導入期に外科専攻医応募が2年連続ゼロとなった.研修システムや指導医側の熱意が伝わっていないことが考えられ,危機感を持って取り組むことで外科専攻医応募者数が回復した1).当院の外科志望者増加のためのマーケティング,実践,発信について紹介する.
II.マーケティング~学生が知りたいこと~
筆者はレジナビ,病院説明会には必ず出席し,また,病院見学に来る多数の医学生と直接接してきた結果,外科研修に興味を持つ医学生の関心事をマーケティングできた(表1).
外科医としてのキャリアパスを最初に説明しているが,やはり外科専攻医に残れるか?大学との関係はどうか?などが頻度の高い質問であった.研修内容として手術や処置がどのくらいさせてもらえるか?学会発表,論文執筆の機会や指導はあるか?ということが関心事であった.研修生活では土日休日の体制,研修医室,寮の有無,給与など現実的な質問が多かった.見学の際は当院の臨床研修医に研修医室を案内してもらい,研修生活の実際を知ることになるため誤魔化しは効かない.やはり医師の働き方改革への取り組みも重要と感じている.
III.実践~研修内容の工夫~
初期臨床研修は2年間で色々な科をローテートする必要があり,当院の外科コースでは合計9カ月が外科研修となっている.外科専攻医に応募するにはJ2の夏に決めないといけないため,外科医としての楽しさを早めに知ってもらうことが望ましい.以下に各取り組みを示す.
① On-the-job training
臨床現場で大事なのは「小さな成功体験」と考えている.具体的にはCV挿入,CVポート留置術,鼠経ヘルニア根治術,人工肛門造設術,閉鎖術など最先端の外科医からすれば小さな手術,処置かもしれないが,自分でできたという充実感は指導医の想像以上である.当院では初期臨床研修医のうちからできる手術は体験してもらっている.
② Off-the-job training (Off-JT,図1)
臨床現場で行う研修の他に,月一回程度のOff-JTも重視している2).臨床現場で行う前にトレーニングを積む機会は重要であり,また,臨床研修2年間は外科以外のローテート期間も長いため,外科医へのモチベーション維持という役割もある.様々なOff-JTを企画しているが,最近はロボット実習が人気となっている.
③ 学術指導
学会発表の機会とその指導体制は研修病院選択の決定因子の一つとなっている.最近は地方会の他に日本外科学会定期学術集会,日本臨床外科学会総会でも研修医セッションが設けられており,臨床研修医の貴重な学会発表体験の場となっている.
IV.発信~見える化~
日々の真摯な指導が最も重要だが,それが伝わらないと意味がない2).以下に当院外科研修の「見える化」として,各種発信の取り組みを紹介する.
① ホームページ(HP)
病院外からはやはりHPが重要である.コロナ禍で直接来院できない期間が生じたため,バーチャル見学として紹介動画を作成し,HPにアップロードした.動画は情報量が多く病院の雰囲気がイメージできる.応募者の感想でも紹介動画は評判が良かった.
② Twitter(図2)
HPは基本だが,アクセスしないと情報が得られない.リアルタイム情報としてTwitterの活用は有効と感じている.研修内容,学術活動の紹介に加え,見学再開や募集開始など「駒込病院外科研修」をフォローしていれば随時情報が入ってくる.2022年6月現在で235人のフォロワーを獲得しており,当初の想定以上である.
③ 見学対応
やはり最終的には実際の見学時の指導医,レジデントの対応が最も重要である.当院マッチング応募の動機として,スタッフの対応が良かった,レジデントが仲良さそうで良かった,という自由意見が多く寄せられている.これから外科を目指そうという医学生,臨床研修医が不安なく飛び込める雰囲気作りは外科医獲得に欠かせない.
V.成果~応募状況~
2020年3人,2021年3人,2022年4人と毎年採用枠を満たす外科専攻医を獲得できている.特に2022年はすべて院内の初期臨床研修医からの採用となり,医学生,臨床研修医,外科専攻医へという長期的外科医育成プログラムが可能となっている.
VI.おわりに
外科希望者を増やすためには,学生,研修医のニーズをマーケティングし,適切な実践と積極的な発信が重要と考える.
利益相反:なし
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