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日外会誌. 124(1): 83-85, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「外科発展の礎―外科志望者増加のための取り組み」
1.研修医のニーズから外科志望者増加の方略を探る:市中病院における外科志望者増加の取り組み

聖路加国際病院外科専門研修管理委員会 

鈴木 研裕 , 海道 利実 , 矢田 圭吾 , 小島 史嗣 , 林 直輝 , 横井 忠郎 , 阿部 恒平 , 山内 英子 , 三隅 寛恭 , 岸田 明博 , 松藤 凡 , 板東 徹

(2022年4月16日受付)



キーワード
科専門研修, 研修ニーズ, 女性外科医, 一般病院

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I.はじめに
近年の外科技術の急速な発達は素晴らしい成果をもたらす一方で,外科教育にも新たな変化を求めている1).本邦では2018年度より専門医機構による新たな外科専門研修制度が開始された.新専門医制度の開始に先立ち,聖路加国際病院では2016年から六つの外科サブスペシャルティ科共同の新外科専門研修プログラムを開始した.当院の外科専門研修は,①サブスペシャルティ専門科に偏らない,②キャリアプランに応じた柔軟な研修,③特徴ある連携施設を自分で選択する,の3点が特徴である.プログラム改訂と同時期に,病院全体として医師の働き方改革にも乗り出した.新プログラムを開始した2016年度以降,当院での専門研修を希望する志願者数および外科専攻医数が増加した.そこで,当プログラムでの外科専門研修を希望した研修医の志望理由を収集解析し,外科を志望する研修医を増やす有効な方略を検討した.

II.方法
2016年から2021年まで,当院の外科専門研修プログラムにて研修を希望した応募者数および男女比の推移と志望理由について検討を行った.
次いで,当院の外科専門研修を開始した外科研修医31名を対象に,無記名のウェブアンケートを施行した.調査では,研修プログラムに対する満足度やプログラムを選択した理由などを5段階または4段階のスケールにて聴取した.

III.結果
プログラム改訂前の5年間で当院の外科専門研修を志望した研修医は毎年1~2名であったが,改訂した2016年には4名に増加した.その後も年次毎に増加し,2020年以降は平均して毎年10名が志望した(図1).当院での外科専門研修を志望する女性も増えており,改訂当初3年間は31%,直近3年間では50%の志願者が女性であった.2022年度の入職者は男性3名,女性4名であり,女性外科専攻医の割合が過半となった.
当院での外科専門研修を志願した32名の志望理由を解析したところ,‘教育体制’ 22名(69%), ‘病院のホスピタリティ’ 15名(47%), ‘豊富な症例数’ 12名(36%)であった.
当院の外科専攻医(修了者を含む)31名にアンケート調査を実施した.回答率は51%であった.回答者のうち,91%の専攻医が当院の外科研修プログラムに大変満足または満足と回答した.
当院での外科専門研修を選択した理由(複数回答可)として, ‘職場環境’ 14名(93%), ‘指導体制’ 13名(87%), ‘手術症例数’ 12名(80%), ‘ロールモデルの存在’ 12名(80%), ‘大学医局ではない’ 11名(73%)などが挙がった.‘都心の病院’ 4名(27%), ‘当直回数’ 3名(20%)は考慮しなかったとの回答が大半であった(図2).

図01図02

IV.考察
新たな外科専門研修プログラムを開始して以降,当院での外科専門研修を希望する研修は増加傾向を示していた.当院ではこれまで研修内容改善のため様々な取り組みを行ってきた2)5).今回のアンケート調査により,研修医・専攻医のニーズを把握することで,今後より一層の改善が可能となると考えている.
当院の外科専門研修プログラムを選択する理由として,職場環境が最も強く支持された.新プログラムの実施と同時に,当院における働き方改革が本格化し,残業時間の減少等が影響した可能性がある.2021年における当院外科専攻医の勤務時間は,平均して1週間当たり53.2時間であった.これは米国や韓国で制限されている1週間当たり80時間という勤務時間より33%少ない6).勤務時間の減少に伴い,外科を志望しやすい環境が整ってきたと考えられる.特にここ数年は,当院の外科専門研修を志望する研修医の半数は女性となった.
一方で外科専門研修が終わっても,外科医として独り立ちできると感じる外科専攻医は40%程度に留まっていた.本邦の外科専門研修制度は,外科専門医取得までの一般外科の研修期間が米国や英国に比して短い7).外科専門医として独り立ちできる外科医を育成するためには,効果の高いoff the job training の実施,外科専門研修プログラムの定期的な評価,外科指導医の養成など,現在よりも質の高い外科専門研修が求められていると考える.

V.おわりに
研修医は専門研修選択に際し,職場環境および教育体制を重視していた.外科6科が共同で教育にあたる体制づくりと,外科専門研修プログラムの柔軟性が,外科医を増やす契機となることが示唆された.

 
利益相反:なし

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文献
1) Kurashima Y, Watanabe Y, Ebihara Y, et al.: Where do we start? The first survey of surgical residency education in Japan. Am J Surg, 211: 405-410, 2016.
2) 山内 英子,鈴木 研裕,岸田 明博,他:女性外科医のロールモデル ロールモデルを意識して.日外会誌,120(5):575-577, 2019.
3) 板東 徹,松藤 凡,岸田 明博,他:新専門医制度の開始により見えてきたその現状と課題 一般市中病院における新外科専門医制度の現状と課題.日外会誌,120(5): 588-590, 2019.
4) 吉田 拓人,鈴木 研裕: 【外科研修がはじまった!栄養管理,疼痛・感染対策,外傷対応など初期研修中に会得しておきたい外科的素養】外科医の視点で考える,能力を引き出すための学ぶ習慣 学びを実践する 聖路加国際病院外科チーフレジデントの経験から.レジデントノート22:2380-2385, 2020.
5) 鈴木 研裕,海道 利実,板東 徹,他:夢を実現するためのキャリアパス・教育システム 専攻医の夢を実現するための外科専門研修プログラム.日外会誌,121(6): 663-665, 2020.
6) Kim SG: New start of surgical residents training: the first survey of program directors in Korea. BMC Med Educ, 19:208, 2019.
7) Mcllhenny C, Kurashima Y, Chan C, et al.: General surgery education across three continents. Am J Surg, 215: 209-213, 2018.

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