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日外会誌. 123(6): 509, 2022

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Editorial

若き外科医の先生方へ―多施設研究に参加してみよう!

防衛医科大学校 外科学講座

上野 秀樹



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本学会のSurgery Today誌をはじめ,いくつかのEditorial Boardの業務を経験する中で,最近感じることがある.本邦でも英語教育が盛んになり,若い先生方にとって英語での論文執筆の負担は私が感じるよりも少ないのかもしれないが,それでも外国の言葉を使って自身の研究成果をまとめることには少なからず苦労があると思う.論文作成の前段階で結論の説得力を高める「もうひと頑張り」があれば,英文執筆の苦労に見合う査読者からの評価を勝ち得ることができるのに,と残念に感じる論文が実に多い.自施設の経験症例を後ろ向きに解析し,新指標の臨床的意義を検討した探索研究はその典型である.「もうひと頑張り」は即ち検証過程であり,これを経ることにより結論の「真実性」,確からしさが判断でき,論文報告の価値は数段高まるのである.
この観点から,若い先生方には,二つの利点がある『多施設研究への参加』をお勧めしたい.
まず,研究立案の議論から,良い研究には明確で魅力的な研究仮説が存在すること,その仮説を立証する過程,結論の「真実性」を確信する方法論がいかに重視されているかを学ぶことができる.網羅的解析から導かれた結論は,検証的研究によってその結論の妥当性を評価される必要がある.単施設での探索研究の場合,例えば,他施設での症例を第二の研究対象として用いた検証的結果が示されていれば,査読者はより安心して論文の結論を受け入れることができる.
『多施設研究への参加』を勧めるもう一つの理由は,研究者のネットワークができ,新たな多施設研究の枠組みをつくることができることである.この環境を利用して,自施設で導かれた研究仮説の検証に挑戦してみよう.ネガティブな結果に終わることもありうるが,その場合は潔く仮説の過ちを認識し,次なる修正仮説の構築に資すことができる.ポジティブな結果が得られた場合,より高い次元での仮説の検証,すなわち前方視的コホート研究や無作為比較試験の立案に挑戦することができるかもしれない.
意欲の高い若手外科医を抱える施設において,今後の研究発展を見越し,他施設との交流を率先して行っている指導者の存在は尊い.将来的な人材育成と豊かな研究土壌の醸成を具現化しているのである.翻って自分の教室をみると,自施設症例でのデータベースの作成と分析,そしてその論文化を自身の研究の最終地点に設定している若手はやはり多く,嬉々として「論文」の完成を報告する彼らに,思わず「もうひと頑張り」の言葉を飲み込んでしまうことも度々である.そういった指導力不足の自分への反省も込めながら,このEditorialの原稿を執筆させていただいた.若い頭脳の発想と根気こそが,科学や臨床的エビデンスを発展させる大きな原動力になると信じており,本学会における若手の先生方の活躍を心より願っている.

 
利益相反:なし

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