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日外会誌. 123(5): 483-485, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「外科医の働き方改革と特定行為研修修了者の協働」
6.外科配属診療看護師(NP;Nurse Practitioner)による特定行為実践の現状と有効性

1) 国立病院機構長崎医療センター 外科診療看護師(NP)
2) 国立病院機構長崎医療センター 外科

中原 未智1) , 竹下 浩明2) , 肥田 泰慈2) , 哲翁 華子2) , 村上 俊介2) , 古賀 洋一2) , 三好 敬之2) , 濵田 隆志2) , 米田 晃2) , 北里 周2) , 黒木 保2)

(2022年4月14日受付)



キーワード
NP;Nurse Practitioner, 診療看護師, 特定行為, 医師の働き方改革, タスク・シフト/シェア

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I.はじめに
2019年に「働き方改革関連法案」が成立し,2024年には医師の働き方改革案が施行予定である.医師の勤務時間や時間外労働時間の上限が規制されることで,他職種によるタスク・シフト/シェアの推進が重要視されている1)2)
当院では2014年より診療看護師(以下,NP)を導入し,2021年度よりNP1名の外科配置を開始した.本稿では,外科配属NPの特定行為を含む活動状況と将来の展望を報告する.

II.外科へのNP導入における過程
NPには,患者の全身状態を把握した上で,侵襲度の高い特定行為を実施して良いか判断する能力が求められるため,特定行為における安全性の担保に加え,協働する外科医との信頼関係の構築が重要である.そこで当院では,大学院卒後にプログラムされている2年の実地研修に加え,外科へのNP導入初期に当たる1年は,外科の一般的・標準的知識の習得を目的に消化管外科や肝胆膵外科等のグループをローテイトする形でNPの活動を開始した.2022年度からの外科配属2年目以降は,NPがチーム医療促進のため多職種と連携した周術期管理の実践を目標に,ベッドサイドを中心としたNPの活動を計画している.

III.目的・方法
外科配属NPの現状を示すことで特定行為実践の有効性について検討し,将来の展望を明らかにすることを目的とし,下記2項目について調査した.
1.外科配属NP1名が2021年4月から2022年3月に実施した特定行為のうち外科に関連した,胸腔ドレーンの抜去,腹腔ドレーンの抜去,中心静脈カテールの抜去,末梢留置型中心静脈注射用カテーテル(以下,PICC)の挿入,創部ドレーンの抜去,直接動脈穿刺法による採血の6行為の実施件数
2.外科配属NP1名が2021年4月から2022年3月にスコピストや閉創時の真皮縫合の実施等,手術助手として外科医と協働した手術件数と時間

IV.結果
1.特定行為実践(表1
外科配属NP1名は,外科領域に関連した六つの特定行為を年間162件実施した.各種ドレーンの抜去は全体の6割以上と実施頻度が高く,PICCの挿入は月1件以上の頻度で実施していた.
2.手術参加件数と時間(図1
外科配属NP1名が助手やスコピストの役割で参加した手術件数は年間116件で,手術参加時間は年間454時間であった.
3.外科配属NPのその他の活動内容
◆ 医師の診療補助
当院では医師の承認を受けた場合に限り,医師代行としてNPが指示出しや各種検査オーダーを実施しており,医師不在時にもタイムリーな医療提供が可能である.また,他科コンサルテーションや診療情報提供書・サマリーの仮作成も行っている.
◆ 患者のケアに対する提案・実施
看護師としての視点を活かし,適宜医師や病棟看護師,多職種へケアの提案・実施をしている.
◆ サマリー作成・カンファランス提示
術前サマリーを作成し外科カンファランスで提示している.術式や医療機器は日々進歩し医療は高度化・複雑化しており,より厳密な周術期管理が必要である.NPが術前より合併症の要因をマネジメントできることで,NPによる周術期管理が一部可能となり,その間医師は手術等の医行為に専念することができる.
◆ 患者のアセスメント・カルテ記載
NPは看護学と医学の知識および経験を活かしたアセスメント・カルテ記載が可能である.
◆ 多職種連携
NPによる多職種連携は,チーム全体で患者の病状や治療方針を明確にでき,「患者にとっての利益」を共通目標としたチーム医療の促進に寄与している.
◆ 特定行為研修指導・看護師教育
当院では看護師特定行為研修にNPが指導者として携わっており,医学的な視点だけでなく,看護の視点を基にアセスメントやケアの選択ができることを目標の一つとしている.その他,若手看護師等を対象とした教育を行う等,後進育成に力を入れている.

図01表01

V.考察
NPは特定行為実践やタイムリーな医療・看護の提供により外科医とのタスク・シフト/シェアを図り,医師や看護師等を含む多職種の業務効率化に貢献する可能性がある.また,患者はドレーン等の苦痛から早期に離脱でき,満足度やQOLの向上が期待できる.NPの手術助手としての外科医との協働により,医師が手術記録や標本整理等の業務に専念する時間を捻出することが可能となった.NPの看護学と医学の知識および経験を活かしたアセスメントによる実践は,安全で質の高い医療提供やチーム医療の促進に有効であった.
これらは外科配属NP1名による現状であり,外科領域にNPや特定行為研修修了者が増えていくことで,今後更なる効果が期待できると予測する.

VI.おわりに
NPの看護学と医学の知識および経験を活かした実践は,医師の業務負担と「患者にとっての利益」を共通目標としたチーム医療促進に有効であり,NPや特定行為研修修了者の後進育成が進むことで,更なる医師のタスク・シフト/シェアに繋がると期待できる.
用語:
診療看護師(NP; Nurse Practitioner):一般社団法人日本NP教育大学院協議会が認めるNP教育課程を修了し,同協議会が実施するNP資格認定試験に合格した者3)

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省医政局長通知「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」.医政発,2021.
2) 厚生労働省ホームページ「第7回医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」.2022年5月22日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000704435.pdf
3) 一般社団法人日本NP教育大学院協議会ホームページ.2022年5月22日. https://www.jonpf.jp/

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