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日外会誌. 123(5): 480-482, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「外科医の働き方改革と特定行為研修修了者の協働」
5.診療看護師(NP)によるタスク・シフティングの効果

1) 藤田医科大学病院 中央診療部FNP室
2) 藤田医科大学 医学部心臓血管外科
3) 藤田医科大学 医学部救急総合内科

谷田 真一1) , 永谷 ますみ1) , 竹松 百合子1) , 齋藤 史明1) , 松原 章恵1) , 高味 良行2) , 高木 靖2) , 岩田 充永3)

(2022年4月14日受付)



キーワード
診療看護師, タスク・シフティング, 働き方改革, 特定行為研修

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I.はじめに
医師の長時間労働や地方での医師不足が問題視される中,本邦での診療看護師(NP)制度の検討が行われ,2014年6月に保健師助産師看護師法改正による「特定行為に係る看護師の研修制度」が成立した.
当院では,大学院修士課程にて特定行為全21区分の研修を修了し,一般社団法人日本NP教育大学院協議会が実施するNP資格認定試験の合格者が2014年よりFujita NP(FNP)として勤務している.所属は診療部であり,現在28名が在籍している.1~2年目は各診療科のローテーション研修を行い,3年目以降は診療科に固定配属となる.ここでは,外科系診療科(消化器外科・心臓血管外科・脳神経外科)に配属されているNPの活動を中心に報告する.

II.NPによる周術期業務内容
NPの業務内容は特定行為の実施のみならず,医師の直接指示下での医療行為の実施,カルテ代行入力,手術助手,病棟看護師からのコール対応など,入院から退院までシームレスに患者管理を行っている.
① 術前
術前からNPが医師とともに患者の診察を行い,患者把握や疾患の重症度・緊急度を共有し,手術予定に合わせた術前のプランニングに参画する.主な業務内容は,問診や術前検査オーダー,検査結果の確認,術前中止薬の指示などである.一定のプロトコールに加えて,医師に確認しながら疾患や術式・検査結果に合わせた追加検査オーダーや他科依頼を行う.術前検査結果・手術適応・術式など多岐にわたる議論・カンファレンスにも積極的に参加し,詳細な手術方法に関して不明な点は,執刀医と適宜打合せを行う.さらに,これらの情報を手術室看護師や臨床工学技士と共有する多職種間の橋渡しも行う.
② 手術
手術室での必要な画像の提示・麻酔補助・体位作成・剃毛・術野消毒・ドレーピングなどを行う.すべてのことを毎回NPが行うわけではないが,どの部分でも代行できることでスムーズな手術開始への援助となっている.
手術助手としては,第二助手を中心に,一部では第一助手,消化器外科では内視鏡手術時のスコピストの役割を担う.術中は術野のみならず,術者の動き・器械出し看護師の準備状況・バイタルサインなど全体を把握し,次の手技を予測した指示を器械出し看護師に出すことで,術者が術野に集中でき,手術が円滑に進むよう働く.
2020年度消化器外科では318件1,272時間/2人,脳神経外科では117件571時間/1人,心臓血管外科では187件1,097時間/1人の手術参加を行った.定期手術でのNP業務を蓄積の上,緊急手術にも参画している.
③ 術後ICU管理
主な役割は,呼吸・循環管理,処置介入である.特定行為に限らず,その他の相対的医行為と組み合わせて術後管理を行っている.具体的には,血液ガス分析による人工呼吸器の設定変更・ウィニング・抜管,循環作動薬・輸液輸血利尿薬による循環・体液管理,ペースメーカ・抗不整脈薬によるレートコントロール,ドレーン管理,鎮痛薬による疼痛コントロールなどである.
術前からシームレスに患者に関わることで,術前・術中の病態を考慮した術後管理が行われている.さらに,NPが術後管理を行いつつ,ICU看護師への情報提供を担うことで医師と看護師の繋ぎ役になっている.
④ 術後病棟管理
病棟当番の医師と回診を行い,患者の経過・問題点,治療方針の確認などを行い,看護師とも情報共有を行う.採血結果や画像・検査データや創部の状態などから,随時病態評価を行い,追加検査や薬剤調整の代行入力,創部処置などを行っている.病棟で実施することの多い処置としては,動脈穿刺採血,抜糸・抜鉤,陰圧閉鎖療法,PICC挿入,各種ドレーン抜去,CV抜去などである.これらは医師に代わりNPが実施することも多い.単にその行為を行うのではなく,患者状態の評価を行った上で必要性の判断や処置前後の観察を十分に行い,トラブル時の対応やその後の治療についても考慮して施行している.
また,手術や外来・緊急患者対応などで医師が病棟不在時のファーストコール対応も重要な役割の一つである.例えば,発熱の連絡があった場合,身体診察・採血・培養検査・レントゲン・補液など熱源検索と初期対応を行った上で医師に報告し,タイムリーな指示を仰ぐ.

III.特定行為・相対的医行為の実施数(表1
特定行為は,2020年度4,574件/5人の実施があった.診療科別にみると,消化器外科では2,276件/2人,心臓血管外科では2,004件/2人,脳神経外科では294件/1人の実施であった.全体として実施頻度が高いものとして,PICC挿入582件,電解質補正444件,動脈採血385件の順であったが,診療科毎に求められる行為は異なる.また相対的医行為も手術・創傷管理に関連するもの中心に実施していた.
PICC挿入は,各診療科で実施するのみならず,院内全診療科から依頼を受け,NPが行っている.PICCは挿入時合併症の少なさなどから近年注目されており,当院でも挿入件数は増加傾向にある.2018年には医師によるCV挿入件数を上回り,2020年度には938件まで増加した.そのうち836件(89.1%)はNPが挿入を行っている.

表01

IV.考察
これまで医師が行っていた処置・オーダー入力・手術助手をNPが代行するタスク・シフティングは,実施件数・時間から,一定の効果があったと考えられる.NPが手術助手を務めることは,単純にその時間が医師からのタスクシフトとは言えないが,医師が病棟・外来業務に当てられる時間が増加し,当直明けに帰宅できるなどの効果が得られている.また人員不足の中,NPが緊急手術への対応にも有効な支援ができ,並列で手術を行うことが可能な状況ができている.
また日常病棟業務・初期対応を行うことで,医師からは「カルテ入力作業が減少した」「看護師からの電話が減少した」などの声がある.さらに,治療方針などを医師と情報共有ができているNPが現場にいることで,看護師を含めた多職種間の情報共有・連携がスムーズになり,検査漏れなどのチェック体制が充実し,医療安全の向上にも寄与している.これらは,患者の安心・安全の医療にも繫がっている.

V.おわりに
NPは,特定行為のみではなく,カルテ代行入力や相対的医行為も組合せた医療全般の提供を行い,チーム医療の一員として,医師の業務負担削減と職種間の円滑な連携に役立っている.一緒に働く医師・看護師などからは,NPによるタスク・シフティングの効果を肯定的に実感している声があるが,これらを客観的データとして示していくことが求められている.

 
利益相反:なし

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