日外会誌. 123(5): 477-479, 2022
定期学術集会特別企画記録
第122回日本外科学会定期学術集会
特別企画(2)「外科医の働き方改革と特定行為研修修了者の協働」
4.当院における地域医療を守る抜本的働き方改革の取り組み
1) 自治医科大学 消化器一般移植外科 佐田 尚宏1) , 清水 敦1) , 村上 礼子2) (2022年4月14日受付) |
キーワード
働き方改革, 看護師特定行為, 三位一体改革, 外科診療の効率化
I.はじめに
従来,医師の働き方,特に大学病院勤務医の働き方は極めて特殊で,「医師は労働者ではない」とする意見も根強く,医師法第19条の応召義務や職務専念義務免除の取扱いなど,法律的にも整理が困難な要素が多々あり,働き方改革の議論は全く進まなかった.しかし2015年の電通問題,2016年の新潟市民病院問題を契機に働き方改革関連法が制定されたことにより状況は大きく変化した.2019年4月施行の同法では医師については5年間の猶予期間が設けられたが,その猶予期間が終了する2024年4月に向けて,医師数が増加していない外科領域では特に診療の抜本的効率化を実現することが急務である.
自治医科大学附属病院は栃木県下野市にあり,許可病床数1,132床の大学附属病院で,院内勤務医師数769人に加えて常勤医267人を県内外の地域に派遣している(2022年4月現在).医師派遣により地域医療を支えている当院では,地域医療を守るための働き方改革を実現することが重要な課題である.
II.外科医局における業務の抜本的効率化
2004年実施された勤務時間調査で当科(消化器・一般外科,現在の消化器一般移植外科)は教授からレジデントまでの平日平均勤務時間が約15時間,総ての診療科のなかで群を抜いて最長であった.その要因は人員不足と診療の非効率にあり,2000年以降データベース整備,診療マニュアル作成,クリニカルパス作成などの診療のインフラ整備を行い,業務の効率化に務めた.2015年以降は診療自体の効率化に取り組み,教授回診の廃止,当直明け手術参加禁止,当直人数の削減,他科(呼吸器外科)との共同当直導入,病棟受持の臓器別再編と病棟別配置(5A病棟:上部消化管,5B病棟:肝胆膵を固定とし,下部消化管,乳腺,化学療法は両病棟で対応),個人外来から臓器別グループ外来への移行(肝胆膵グループ),カンファレンス時間内実施,などの取り組みを行った.その成果として2016年4月以降「手術等の休日・深夜・時間外加算1」の施設要件を満たすことができた(2022年3月現在,当科だけが院内での加算取得診療科).
リクルート活動にも注力し,毎年当科の診療内容,組織の特性を宣伝するためのパンフレットを作成,様々なメディアを用いた活動も行い,2015年以降49人の入局者を加えて,2022年4月現在医局員数110人となった.また女性外科医が25人(22.7%)在籍し,8人の女性外科医が産休・育休から復帰している.
III.看護師特定行為とタスク・シフティング,タスク・シェアリング
前記外科医局としての取り組みだけでは,十分には働き方改革には対応できない.2015年以降,病院全体で働き方改革に全力で取り組むこととし,様々な制度改革を行った.2019年4月メディカルサポートセンターを開設,医師事務作業補助体制加算は2020年11月に30対1を取得した.看護師からのタスク・シフティングとして看護補助員25:1,夜間看護師12:1の施設基準に加え,2020年3月夜間看護体制加算,夜間看護補助員100:1を取得し,2016年度大学附属病院本院群80病院中72位(1.4566)であったDPC医療機関別係数は2020年度82病院中4位(1.6485)に改善した.
当院は2015年8月特定行為看護師研修センター(施設番号1番)を開設,2022年3月までに306名(修了行為数1,134行為,パッケージ修了者37名)が研修を終了している(同時期の全国の修了者数4,832人1)).そのうち当院勤務看護師は51名(修了行為数150行為,パッケージ修了者8名),外科系・重症系病棟を中心に2021年度2,692行為を実施し,前年比84.5%増加した(2020年度1,459行為).特定行為看護師の育成・活躍支援は看護学部,附属病院看護部と密に協力し,研修費用の全額補助,診療代表者会議で特定行為看護師の勤務状況,行為数の月次報告を行い,特定行為の周知,実施件数増に努めている2).
IV.当直改革と裁量労働制・変形労働時間制の導入
業務の抜本的効率化の一環として当院では各科当直を廃止,2015年から夜間・休日の救急外来患者を内科系医師2名,外科系医師1名,救急部医師1名,レジデント5名で診るセンター当直制度を創設し,2020年4月からは外科系診療科に22:00~7:00までの宿直勤務(労働基準監督署届出済)を導入した.2019年シニアレジデント以下の職階に変形労働時間制を,それ以上の職階に裁量労働制を導入,診療科長・センター長等は管理監督者とした.変形労働時間制勤務者は労働時間を1日10時間,週4日勤務を基本とし,外勤は総て時間外勤務,繁忙な当直業務は勤務時間として整理した.裁量労働制勤務者には,土日祝日の勤務には時間外勤務手当を支給,当直手当,呼出手当,手術延長手当などは従来通り支給し,職階と報酬が逆鞘にならないように配慮している.これらの取り組みにより変形時間労働制勤務医師(約300人)の一人あたり平均超過勤務時間は,制度導入初年の2019年度77.4時間/月から,2020年度62.1時間/月と約25%削減され,2021年度も53.7時間(2022年1月までのデータ)とその傾向を維持している.また,労働環境悪化により2018年初期研修医マッチング数が32人まで低下したが,2020年は12年ぶりにフルマッチ58人に回復した.2018年から導入した日本医療機能評価機構職員満足度調査では,初年度医師の満足度は2.89と他病院平均3.27を大きく下回っていたが,2020年度は3.68と大きく改善し,2018年他病院平均を下回っていた「医療介護の質」評価も2020年には他病院平均を大きく上回った.
V.おわりに
医師の働き方改革は,今後日本の医療が現在の形で存続するためには,必ず達成しなければいけない極めて重要な課題である.その一方で,地域医療構想など地域としての医療効率化も重要で,新型コロナウイルス感染症で忘れられた感がある三位一体改革(地域医療構想の実現,医師偏在対策,医師の働き方改革)の可及的速やかな実現が望まれる.2年毎に行われている医師現況調査では,2020年外科医師数は27,946人,2012年調査時の28,055人から99人減少している(同時期全医師数は303,268人から339,623人と36,355人増加).外科医師数が増加しないなか,外科医局として出来ること,病院全体で取り組むべきことの両面から,提供する医療の量・質を落とすことなく,地域医療を守る働き方改革を促進することが,今後の外科医療のsustainabilityを考える上では極めて重要である.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。