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日外会誌. 123(5): 429, 2022

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会員のための企画

「福島原発事故後10年を経過して」によせて

日本医科大学 内分泌外科

軸薗 智雄



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今から36年以上前の1986年4月26日,旧ソ連ウクライナ共和国の北側に位置するチェルノブイリ原発で原子力発電開発史上最悪の事故が発生した.同事故により,当時小児であった住民への甲状腺癌発生の増加を認めた.日本に於いては,ご承知の通り,2011年3月11日に東日本大震災が発生,その後,大津波によって多くの死者・行方不明者を出した.福島ではさらに原発事故が発生し,大気中に拡散した放射能による健康への影響が危惧された.チェルノブイリでは,事故の4年後から甲状腺癌の急増を認めていた.福島原発事故前には小児甲状腺癌についての疫学調査はされておらず,事故後詳細調査を実施した場合に比較検討ができないことから,福島県では県民健康管理調査(のちに県民健康調査)が計画された.これは,事故当時の福島県民全員に事故直後の被ばく線量を推計する基本調査を実施し,ほかに四つの詳細調査を計画した.そのうちの一つに,事故当時18歳以下の福島県民に超音波を用いた甲状腺検査が行われることとなった.
本企画では,2011年の福島原発事故直後から,福島県民健康調査の甲状腺検査を中心になってご担当された,甲状腺癌に関する本邦の第一人者である,福島県立医科大学医学部甲状腺治療学講座の鈴木眞一先生に「福島原発事故後10年を経過して」というタイトルでご執筆いただいた.本企画では,今までに経験のなかった大規模検査を立ち上げ実施した経緯,甲状腺検査の進捗状況,過剰診断抑制を盛り込んだ精査基準,発見された甲状腺癌の特徴について,最新の知見に基づいてご解説いただいた.
われわれ外科医が,福島原発事故後10年を経過した現在に於いて,放射線の影響による甲状腺癌増加の傾向は認められていない等の科学データを再認識することは有益であると考える.本企画が会員の皆様にとって,甲状腺癌に対する日常診療の一助となれば幸いである.

 
利益相反:なし

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