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日外会誌. 123(2): 180-185, 2022

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特集

Corona禍で大きく変わった学術活動,After Coronaでどう舵を切るか

8.これからの学術集会のあり方

九州大学大学院医学研究院 臨床・腫瘍外科

中村 雅史

内容要旨
外科系学会・研究会の学術集会は数が多く,内容にも重複がみられ参加者受益の視点での改革が必要である.新型コロナウイルスによるパンデミック以前,「学術集会の在り方ワーキンググループ」としてサブスペシャルティ学会も含めた合同学術集会であるSurgical Weekを推進してきたが,大規模人数参加の集会を開く会場等の物理的な課題があった.一方,コロナ禍でオンライン会議が急速に普及したことによりSurgical Week開催における会場の課題は克服可能となったが,学術集会改革の主な対象の一つである学術集会出席のための物理的・経済的な負担も軽減された.今後は,テーマの重複やオンライン配信のインフラ整備を最重要課題として改革を進めて行く必要がある.

キーワード
学術集会, Surgical Week, 学術集会の在り方ワーキンググループ, 新型コロナウイルス, オンライン

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I.はじめに
外科医が減少し,働き方改革も進行しているにもかかわらず,依然として学会や研究会の数が多く,しばしば内容も重複していることが参加にあたっての負担となっている.日本外科学会では森理事長のご指示の下,将来計画委員会内に「学術集会の在り方ワーキンググループ」を組織し今後の学術集会の方向性について検討を行ってきた.しかしながら,コロナ前に始まったこのワーキンググループの議論も,コロナ禍で大きく変わった社会状況に応じて方向転換せざるを得ない状況に遭遇している.コロナ後も続くと思われる最も大きな変化はインターネットを介した会議システムの導入であり,今後はIT技術を活用した学会活動を避けることはできなくなると思われる.コロナ禍前後の日本外科学会学術集会に関するアンケート結果を参照して日本外科学会将来計画委員会「学術集会の在り方ワーキンググループ」のこれまでの活動と学術集会改革の方向性について述べたい.

II.コロナ前
2012年の調査によると,30代の外科医師数は8,317名であり,9,894人である40代に比較して約16%(1,577名)少なかった1).昨今の入局者数を鑑みるに,この減少傾向に変化が起きたとは考えにくい.一方,外科系の学会・研究会の統合は進んでおらず,しばしば内容も重複している.このような現状が継続することは若手外科医への負担となっているとともに,将来外科医を希望する若手の減少の一因ともなりかねないことが危惧される.このような現状を改革して若手外科医の負担を軽減するために,日本外科学会将来計画委員会内の「学術集会の在り方ワーキンググループ」で検討が行われた.具体的な負担軽減の対象としては複数の異なる学会の学術集会に参加するための移動時間とコスト,参加日数が想定された.また参加意欲を欠く原因となる同じような内容のセッションの繰り返しも,外科系学術集会全体としてのクオリティー向上のための最重要課題とされた.これらを解決する方法として日本内科学会総会と英国のSurgical Weekが参照された.
日本内科学会は講演会場が一つであり,主に教育的な講演のみが開催される.基盤学会としての内科学会総会が教育に的を絞ることで,結果的にサブスペシャルティ学会との重複を避けて内科系学術集会全体の調和が保たれている.英国の外科系学会はSurgical Weekとして複数の外科系学会を合同開催することで移動・参加の負担を軽減し内容重複を避けている.この二つの特徴ある学術集会を参照にしてワーキンググループ,理事会で検討を行った.その結果,大学病院や地域の医療センター等の勤務医が多く所属する外科系学会としては英国のSurgical Week方式をモデルにするのがよいのではという結論に至った.
2019年12月から2020年1月にかけて,学術集会の負担度やSurgical Weekの是非に関してのアンケートである「学術集会の在り方に関するアンケート」を本学会員を対象に施行した(図1).回答者数は2,447名で回答率は6.1%だった.58%が学術集会の回数が多いと回答したのに対し,学術集会参加が負担ではないとの回答は21%(519/2,447)であった.日本外科学会定期学術集会と他の全国規模の学会総会で議論される内容や形式に違いを感じるかという設問に対しては,かなり違いを感じる回答者は9%にとどまり,75%が何らかの方策で“本学会の定期学術集会と,他の全国規模の学会総会に差別化が必要”と回答した.このアンケートではSurgical Weekを開催するまでの移行措置として,同じ日程に,同じ都市で,複数の学会が同時開催されるがあくまでも運営は各学会が独自に行うという緩やかな集約形態の学術集会であるSurgical EXPOの是非が問われたが賛成,どちらかと言えば賛成,部分的に賛成を合計すると約74%が賛成側であった.
この結果を踏まえてサブスペシャルティ学会との会談が行われた.その結果,総論としてはSurgical Weekの必要性が認識されたが,一方で実現するためには課題も多いことが浮き彫りとなった.そこで具体的な仮想スケジュール案を作成し再び協議することとなった.仮想会場としてはパシフィコ横浜規模の16~17会場,会期は4日間を想定した.外科学会担当部分は総論に限る,サブスペシャルティ学会の“のべ会場数”は各々の学術集会におけるのべ会場数の比に比例するという原則に従って仮想プログラムを構築した.過去の日本外科学会学術集会を解析すると総論に相当する領域(基礎研究,移植再生,栄養,感染症,緩和,総論など)はプログラム全体の10%前後であることが判明したので,仮想プログラムにおける外科学会の“のべ”会場配分は現在の学術集会の10分の1程度に圧縮した.この具体的なプログラム案をたたき台にして,改めて各サブスペシャルティ学会と協議を進める予定であった.ロードマップとしては,2020年初春から換算して1年以内に「Surgical Week」の骨子を取りまとめ,さらに1年以内に各サブスペシャルティ学会との合意点を探り,それから5年後の2027年春頃に開催を目指すこととした.

図01

III.コロナ後
2019年に,後にCOVID-19と命名される新型コロナウイルスによる感染症が中国武漢から世界で初めて報告された.2020年1月には本邦で最初の感染者が確認され,2月には死者が確認された.感染者数は2月に100人を越え,3月には1,000人を越えた.新型インフルンザ等対策特別措置法が改正されて,初の新型コロナ・パンデミックに対する緊急事態宣言が発令されることとなった.2020東京オリンピックも1年延期が決定された.このような状況下にあって多くの学会は開催を延期するか断念することとなった.北川会頭の第120回日本外科学会定期学術集会も同年8月に開催延期となった.しかしながら,その後も感染は収まらず緊急事態宣言が繰り返されてそれが恒常的な状況となっていった.
結果的に完全オンライン開催となった第120回日本外科学会定期学術集会が,その後の学術集会の流れを大きく変える起点となった.北川会頭を始めとする主催校のご尽力によって,恐らく全ての大規模医学系学会で最初の完全オンライン開催となった本会は非常に高いクオリティーで運営され,参加者はオンライン学会のプラスの面を深く実感することとなった.閉会後に行ったアンケート調査でも参加者の満足度は非常に高かった(図2,回答者数2,031名,回答率9.9%).93%がオンライン開催となった学術集会の講演が聞きやすかった,もしくは非常に聞きやすかったと回答した.そして86%がオンライン開催に賛同し,85%が今後もハイブリッドもしくはオンラインでの開催を希望した.反対に,仮に現地開催されていた場合はそちらの方が良かったという回答は34%にとどまった.

図02

IV.コロナ前後の変遷
第120回日本外科学会定期学術集会とそのアンケート結果はSurgical Week構想にとって大きなターニングポイントとなった.Surgical Week構想の最大の目的は学会参加に際しての時間的およびコスト的な負担を削減することであった.しかしながらオンライン開催はこの負担をほぼ完全に払拭した.そこで,再びオンライン開催となった第121回松原会頭の日本外科学会定期学術集会閉会後に,Surgical Weekの開催是非も含めたアンケートを行った(図3,回答者数2,599名,回答率15.7%).第121回も完成度の高いオンライン学会として運営された.結果としてオンラインによる学会参加についての総合的な印象に関する設問で86%の参加者から賛成かやや賛成の回答を得た.今後の開催方式についてはオンラインもしくはハイブリッド(オンライン+現地開催)を希望するとの回答が86%を占めた.第120回日本外科学会定期学術集会のアンケートでも同じ設問で85%がオンラインもしくはハイブリッドを希望しており,同様の傾向が続いていることが伺えた.新型コロナウイルス感染症終息後もハイブリッド開催が継続された場合に現状の学会の回数は多いかという設問では多いと妥当であるがともに45%で拮抗していた.また複数選択可の設問ではあったが,ハイブリッド開催が行われている現状で学会参加が負担になっているかという設問では「ハイブリッドが増えたため負担は感じない」を選択した回答者が56%に上った(1,429/2,596=55.6%).一方,日本外科学会定期学術集会と他の全国規模の学会総会で議論される内容や形式に違いをほとんど感じないという回答が60%,少し違いを感じるという回答が20%であり,かなり違うという回答は6%にとどまった.最終的にSurgical Weekとして日本外科学会とサブスペシャルティ学会総会のプログラムを合同化して同時開催することについての質問に関しては賛成+どちらかといえば賛成が68%,部分的に(修正を加えて)賛成が14%であった(計82%).

図03

V.今後の方針
2020年1月に行った学術集会の在り方に関するアンケートと第121回日本外科学会定期学術集会のアンケートを比較すると,コロナ前後で学術集会に対する会員諸氏の認識が大きく変化したことを読み取ることができる.コロナ以前の回答では学術集会数が多く(多い58%)負担が多い(負担でない20%)となっていたが,第121回日本外科学会定期学術集会後の回答では学術集会数に関しては多いとする回答と妥当とする回答が拮抗しており(各45%),学会参加が負担になっているかという設問では「ハイブリッドが増えたため負担は感じない」を選択した回答者が最多であった(56%).一方,日本外科学会定期学術集会と他の全国規模の学会総会で議論される内容や形式に違いを感じるかという設問に対しては,かなり違いを感じる回答者は9%にとどまっていたが,第121回日本外科学会定期学術集会後のアンケートにおいても6%にとどまった.このように,新型コロナ感染症のパンデミックへの対策として学術集会をオンライン化することが余儀なくされたが,結果的に参加者の負担が軽減され,学術集会を減らして欲しいという要望も減少傾向を示すことになった.しかしながら複数の学会間で学術集会の内容が似通っているという意見は依然として多いままであった.
一方,Surgical Weekを希望する回答はコロナ前後で74%/82%と大きな変化を示さず,学術集会参加の負担感軽減や数を減らすべきという意見の減少傾向と乖離を示した.恐らく,この乖離の原因は学術集会間における内容の類似性にあるのではと考察される.今後,学術集会の改革目標は,学術集会数の減少や移動の負担軽減といった物理的・時間的課題から,プログラム内容といった質的な課題へシフトする必要があると思われる.近年,会頭になられた先生方が総論的な内容の充実や各サブスペシャルティとの内容重複を避ける努力をなされたことで,学術集会のプログラムに関しては大きく改善されてきている.今後さらなる差別化を達成するためには,日本外科学会と各サブスペシャルティ学会が学術集会の内容を恒常的かつ継続的に検討する常設機関の設置が必須であると思われる.また,今後は非常に要望が大きいオンライン配信を続けていく必要があるが,各学会の学術集会は大きなコストが強いられ続けることとなる.このような内容の重複,そしてオンライン配信のコストといった課題を同時に解決する方法として,学術集会の物理的な合理化案であったSurgical Week構想の代わりに,学会配信等に関するインフラを共有し,学術集会の内容も共有してそこで話し合えるような,学会運営に関する質的な課題を解決することを目的とした外科系学会各位が社員となる法人を設立することを一案として提案したい.

VI.おわりに
これまで日本外科学会会員へのアンケート調査に基づき,会員の負担軽減のための学術集会改革案作成を進めてきた.しかしながら予期せぬ新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって負担と認識される内容に大きな変化が生じた.今後は生じた変化に対応した新たな学術集会改革を進めて行きたい.また,意識調査等を通じて会員各位の要望を取り入れ変化をフィードバックすることを継続していきたいと思う.最後に,度々のアンケート調査にご協力いただいた会員各位にお礼を申し上げてこの文を終わりたい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 冨澤 康子 :日本の外科医が減っている.次の一手は何? 日外会誌,122(2): 135-136, 2021.

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