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日外会誌. 123(2): 169-171, 2022

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特集

Corona禍で大きく変わった学術活動,After Coronaでどう舵を切るか

5.第123回日本外科学会定期学術集会に向けて,現地開催の意義を考える

東京慈恵会医科大学 外科学講座血管外科

大木 隆生

内容要旨
コロナ騒動の影響でオンライン学会あるいは現地参加とを併用したハイブリッドが主流となった.オンライン活用で利便も効率も向上した事は否定しがたいが,それだけで測れない意義と目的が学術集会にはあり,それは他学医師との交流と共同体意識の涵養などである.オンラインでは得られない人的交流が人間育成と医療・医学の進歩には欠かせない.また,広く外科医同士の結束を涵養する事は外科医療と本学会の存続には不可欠である.ハイブリッド形式の弊害は少ないように思われるが,人間は本能的に効率性を重視するので,もし選択肢があれば多くがオンライン参加を選んでしまう事は過去2年間のハイブリッド学会の開催実績をみても明らかである.すべての研究会,学会を現地参加のみとすることは現実的ではないが,基盤学会においてはオンラインという選択肢を制限する事でより包括的な成果を追及すべきである.例えば初等教育でオンラインと言う選択肢を残した場合,利便と効率だけを考慮しこれを選択する学童も出てくるだろうが,長い目でみてこの選択肢を残さない方が学童本人にとっても社会にとっても得策ではないだろうか.第123回日本外科学会定期学術集会はこうした事を念頭に,ハイブリッドではなく現地参加形式を目指したいが,効率的という短期的メリットを持つハイブリッドを制限するハードルは極めて高いので合理的かつ多くの参同が得られるような折衷案を模索したい.

キーワード
Face-to-face, Online, hybrid, annual congress

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I.はじめに
2020年に世界を襲った新型コロナパンデミックにより,すべての人,業種が多大な影響を受けたが学会も例外ではなかった.人との交流,つまり接触は回避すべき事とされた結果,オンライン学会あるいは現地参加とを併用したハイブリッドが主流となった1).オンライン利用で利便も効率も向上した事は否定しがたいが,それだけで測れない意義と目的が学術集会にはあるので,負の側面があることも事実である.本稿ではオンライン活用の盲点を検証しつつ,第123回日本外科学会定期学術集会の主催校としての願いを述べる.

II.学会の目的,意義
学会の目的の内,学術情報の共有や討論はオンラインでも十分可能であることはパンデミック勃発後の2年の経験で証明された.また,それにより効率と利便が向上したことも疑いのない事実である.しかし,それ以外の意義,例えば他学の医師との交流と共同体意識の涵養などはオンラインでは得られない.対面での人的交流は人間育成とともに医療・医学の進歩には欠かせない.私は1987年に東京慈恵会医科大学を卒業し,1990年頃から日本外科学会定期学術集会に毎年参加するようになった.右も左も分からない,専門臓器も定まっていない自分にとって,日本外科学会定期学術集会はすべてが俯瞰できる自動車ショーの様だった.そして,血管外科を選択してからは日本外科学会定期学術集会の血管外科セッションに参加し,自分の研究テーマであった自家静脈グラフトの内膜過形成の演題を一生懸命聴講し,質疑応答では他学演者に食い下がった.その過程で多くの先輩と知り合いになり,仲間も得,その後の共同研究にもつながった.その中の一人が名古屋大学血管外科の古森公浩教授である.古森教授にはその後30年以上に亘りお付き合いさせていただいているが,私の人生に与えた影響は極めて大きい.こうして外科医同士の仲間意識が強く涵養され,今でも自分の財産となっており,対面形式の学会での人的交流がなかったら日本外科学会定期学術集会をわが事の様に想う共同体意識を持つことも,今の私もなかったと断言できる.

III.ハイブリット開催の現実
この2年間のパンデミック後に開催された学会はほぼ全てオンラインあるいは両者を併用したハイブリット開催形式であった.ただ,ハイブリッドとは言え職場や在宅から自分の興味のあるセッションを効率よく聴講でき,各種クレジットも取得できる上に移動を伴わないオンライン参加の比率が圧倒的に高く,したがって過去2年間に開催されたハイブリッド形式の参加者の内訳は約8対2でオンライン参加となった.コロナが収束し,緊急事態宣言も解除され,都内の感染者数が連日数名から数十名,約100万人に一人程度となった2021年秋の日本臨床外科学会総会をみても,総参加者数4,500人に対し現地参加したものはわずか1/3弱である1,500人にとどまった2).人間は本能的に効率性を重視するので,もし選択肢があれば多くがオンライン参加を選んでしまう事,あるいは所属長からオンラインという選択肢があるなら現地参加に反対されたりする事はこの2年間のハイブリッド学会開催実績をみても明らかであり,それはアフターコロナ時代においても大きく変わる事はないと予想される.
従って,基盤学会はオンラインという選択肢を制限することで人的交流促進と共同体意識の涵養を重視すべきと思われる.例えば初等教育で,現地参加以外にオンライン選択肢を残した場合,利便と効率だけを考慮しオンラインを選択する学童も出てくるだろうが,基盤学会同様,初等教育においては授業以外にも対面の休み時間,旅行,部活,通学などで学ぶ,得るものは計り知れず,長い目でみてオンライン選択肢を残さないことが学童本人にとっても社会にとっても幸せなことであろう.しかし,全ての研究会,学会が現地参加を軸とすることは,費用対効果や医師の働き方改革への対応を考慮すると現実的ではない.例えば,われわれは東京慈恵会医科大学で過去16年に渡りJapan Endovascular Symposium 研究会(JES)という血管外科のライブサージェリーを中心とした研究会を毎年夏に開催してきた.参加者は例年1,000名を超えるイベントであったが,2020年も2021年もコロナ騒動対応のため,オンラインのみの形式とした3).その結果,従来より多くの参加者を得た上に,質問,討論も,対面形式よりしやすく,これまで参加できなかった地方・遠方の参加者も初めて得る事ができてオンライン形式はとても好評であった4).ただ,この研究会は基盤学会と違い,新たな人的交流の場と言うより,情報交換と旧友を温めると言う側面が強いので基盤学会とは同列に論じられない.なお,2022年8月開催予定の第17回JESもすでにオンラインのみの開催とすることを決定した.

IV.ビフォーコロナに戻す難しさ
また,学会の収支に目を向けると,気軽に参加できるオンラインの効果もあり,総参加者数はコロナ前に比べて増えているので財政的に負の影響は出ていないのが現状である.さらに,オンライン形式は多忙あるいは遠方,地方の参加者,すなわち学会弱者の救済という側面も持ち合わせている.つまり,利便が高く,参加者に限らず主催者にとってメリットを伴うハイブリッド学会を,積極的に対面形式主体に戻す動機付けはない.さらに,本稿で述べた人的交流促進と共同体意識の涵養は短期的に目にみえる成果を出す事は困難である一方,オンラインの効果はとても分かりやすい.計りにくい長期的な果実を得る方法と分かりやすい形で短期的メリットをもたらす方法で二者択一を迫られた場合,後者が圧倒的に有利である.
人的交流促進と共同体意識の涵養が特に必要なのは既にこれらの基礎ができている中堅,高齢会員ではなく,いずれも有さない若手会員である.従って,ハイブリッド開催であっても例えば卒後7年以下,あるいは専門医未取得者においては現地参加のみとし,それ以外の外科医はハイブリッド開催とする事は現実的な対応かもしれない.

V.おわりに
第123回日本外科学会学術集会の開催に際しては学会の目的と意義が学術情報の発信,交換にとどまらず,人的交流促進と共同体意識の涵養である事を念頭に現地参加形式を軸とし,これら非学術要素が特に必要な若手外科医には現地参加を求め,オンラインあるいはアーカイブ参加は諸事情のある中堅・高齢会員に限定する形での開催の可能性を関係各位と熟慮しながら模索したい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 伊藤 公訓 :初の完全ウェブ開催となった第106回日本消化器病学会の経験.Medical Tribune. 2021年11月17日. https://medical-tribune.co.jp/news/2021/1117540081/
2) 土田 明彦 :第83回日本臨床外科学会HP.2021年11月21日. https://site2.convention.co.jp/83jsa/
3) 大木 隆生 :第16回Japan Endovascular Symposium開催にあたって.2021年8月23日. http://japanendovascular.com/greeting/index.html
4) 大木 隆生 :第16回Japan Endovascular Symposium開催ご報告.2021年8月23日. http://japanendovascular.com/index.html

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