日外会誌. 123(1): 104-108, 2022
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(8)「待ったなしの働き方改革への対応・対策」
3.心臓血管外科領域における時間外労働時間「年960時間」以上勤務に影響する因子の検討
1) 日本心臓血管外科学会外科医師活動支援委員会男女共同参画WG 柴崎 郁子1)2) , 碓氷 章彦1)3) , 塩瀬 明1)4) , 森田 茂樹1)5) , 横山 斉6)7) (2021年4月10日受付) |
キーワード
心臓血管外科領域, 労働時間, 長時間勤務時間リスク因子
I.はじめに
2018年に日本心臓血管外科学会より会員を対象とした「心臓血管外科医の働き方改革,処遇改善のためのアンケート」をウェブ形式で施行した.この調査結果1)で,週60時間以上勤務(超過勤務に換算して960時間以上)している心臓血管外科医が76%に及んだ.本稿では労働時間と労働環境の実態を把握し,心臓血管外科医の長時間労働の関連因子を検討した.
II.対象および方法
アンケート回答者634人(回答率17%)のうち,主な勤務先の1週間の平均労働時間,性別,年代別の三つの質問事項に欠損があった者,主な診療科がその他と職位で開業院長を除外した有効回答者607人を分析対象とした.アンケート項目は,①外科医の基本属性と仕事関連項目,②外来と病棟業務,術後管理および医療事務を調査した.
III.結果
607名で回答者の基本情報を表1に示す.また心臓血管外科領域の週平均勤務時間における特徴として,アンケートの各項目を統計し有意差を認めた因子を表21,表22に示し,さらに単変量・多変量ロジスティク回帰分析をした(表3).
IV.考察
本研究では,心臓血管外科医における週60時間以上の労働時間に影響を与えた因子として,年齢,オンコール(月20回以上),カテコラミン管理,手術関連の承諾書作成,心臓血管外科医によるICUでの術後管理が挙げられた.
本邦では長時間労働による過労死を防ぐために労働災害基準法が改訂されたが,心臓血管外科医の約76%は労基法で定められた限度を超えていた.厚生労働省から毎週1.5日の休日と1回の当直,9時間の勤務インターバルが推奨されているが,心臓血管外科医は当直回数が月平均5回以上でオンコール回数が月20回以上と厚生労働省が推奨する回数よりも遥かに多い結果となった.また花崎ら2)が報告した外科医の月平均当直回数2.3日,オンコール回数2.2日よりも多かった.また前回の調査1)では25%が特定行為研修終了看護師を導入していたが,効果的であったとの回答は43%に留まっていた.今回の調査結果からも病棟業務,医療事務などのタスクシフトが不十分であることが分かった.
2024年を目前に心臓血管外科領域では,施設集約化,タスクシフトへの取り組みが重要である.過重な当直やオンコールを減らすためには常勤人数を増やす集約化が必要である.一方で看護師不足のなか特定行為研修を受けた看護師が看護業務と特定行為を兼務する可能性もあり,タスクシフトが不十分な結果になることも予想される.本邦も海外で行われているPhysician assistant制度の導入を考慮するべきである.
V.おわりに
本研究のアンケートを回答して頂いた会員の皆様,並びにアンケート結果の統計に携わった獨協医科大学研究連携・支援センター・統計解析支援室の春山康夫先生に深甚なる謝意を表します.
利益相反:なし
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