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日外会誌. 123(1): 101-103, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「待ったなしの働き方改革への対応・対策」
2.大分県のアンケート調査からみた外科勤務医が希望する「働き方改革」への対策

1) 大分大学医学部 総合外科・地域連携学講座
2) 大分大学医学部 消化器・小児外科学講座
3) 大分県外科医会 

上田 貴威1) , 川﨑 貴秀1) , 猪股 雅史2) , 白石 憲男1) , 大分県外科医会 3)

(2021年4月10日受付)



キーワード
外科勤務医, 働き方改革, アンケート調査, タスクシフト

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I.はじめに
日本では超少子高齢社会の到来に伴い,医療費・介護費の高騰が持続している.この状況を改善し,医療の質を落とすことなく持続可能な医療システムを構築するため,厚生労働省は2019年に「三位一体で推進」すべき三つの改革を示した1).その一つが「医師の働き方改革」であり,勤務医に対しては2024年より時間外労働の上限などが適用される2).しかし,地域医療においては,若手外科医師の減少や外科医師の高齢化とともに外科医師不足や偏在などの課題が残されたままである.
このような状況下において,地域の勤務外科医が希望する「働き方改革」やその方策に対する意識を明らかにするため,大分県地域の外科勤務医の「働き方改革」に対するアンケート調査を行った.

II.対象および方法
大分大学医学部附属病院ならびに大分県外科医会所属の44施設に勤務する外科医総数262名を対象とし,2019年12月に郵送によるアンケート調査を実施した.アンケート項目は,「現在の勤務状況」に関する9項目,「タスクシフトやタスクシェア」に関する17項目,「救急・緩和医療へのかかわり」に関する5項目である.

III.結果
有効回答者数は174人(66%)であった.回答者の年代層は,20代8人(5%),30代40人(23%),40代59人(34%),50代43人(24%),60代以上24人(14%)であった.専門科の内訳は,消化器外科116人(67%),心臓・血管外科23人(13%),呼吸器外科15人(9%),乳腺・内分泌外科13人(7%),小児外科6人(3%)であった.月あたりの超過勤務時間は,80時間未満が125人(72%),80~159時間が42人(24%),160~239時間が4人(2%),240時間以上が3人(2%)であった.超過勤務時間は,40歳未満(p<0.01),都市部(p<0.05),管理職ではない(p<0.05)外科医ほど有意に長かった.複数主治医制を一部でも採用している外科医は99人(57%),採用していない外科医は65人(37%),採用を考えている外科医は8人(5%)であり,都市部の施設(p<0.05)ほど複数主治医制を採用していた.勤務に対して最も苦労している点(複数回答可)は,事務的仕事が37人(21%)と最も多く,救急業務26人(15%),休息の不足24人(14%),収入面,対人関係(共に12人,7%)と続いた.また,事務作業などの外科医本来以外の仕事が多いと感じる外科医は126人(73%)であった.
医療クラークと医療事務の違いを理解している外科医は78人(45%)であり,40歳以上の外科医ほど理解している割合が高かった(p<0.05).専門的医療従事者の導入に対する理解度は,特定看護師制度導入が82%(141人),Nurse Practitioner(以下,NP)やPhysician Assistant(以下,PA)導入が65%(111人),外科周術期パッケージナース導入が15%(26人)であり,外科周術期パッケージナース導入の理解度が低かった(図1A).同様に,専門的医療従事者の必要度については,特定看護師制度が78%(135人),NP・PAが63%(107人),外科周術期パッケージナースが25%(44人)であり,特定看護師,NP・PAを必要とする外科医が多かった(図1B).また,夜間救急患者を診ている外科医は160人(92%),休日の救急患者を診ている外科医は155人(89%),緩和医療に携わっている外科医は137人(79%)であった.外科医の勤務状況と専門的医療従事者の必要度の関連を検討したところ,超過勤務が80時間以上の外科医ほどNP・PAを必要としており,救急患者を診ている外科医ほど,特定看護師制度(p<0.01),NP・PAや外科周術期パッケージナース(共にp<0.05)を必要と感じていた.

図01

IV.考察
今回の調査では,約3割の外科医が月80時間以上の超過勤務を行っていた.また,7割以上の外科医が,手術や診療などの外科医本来の業務以外に従事することが多いと感じており,最も苦労している業務は事務作業であった.さらに,超過勤務が長い,夜間・救急を担当するなど多忙な外科医ほど,特定看護師やNP・PA制度などタスクシフトに繋がる制度の必要性を感じていた.
厚生労働省による「医師の働き方改革に関する検討会」では,医師の時間外労働制限や労働時間の短縮,タスクシフトやタスクシェアなどによる医療機関のマネジメント改革,地域医療提供体制における機能分化・連携,などが示されている3).しかしながら,「医師の働き方改革」への障害として,①応召義務を有する,②自己研鑽を常に求められる,③医療技術の習得に職場内訓練が必要不可欠である,などの医師という職業の特性が考えられる.
今回の調査結果から,外科医のための「働き方改革」には,1.外科医の増加・適正配置・複数主治医制の導入による長時間勤務・残業の回避,2.医療クラークの増員・拡充による外科医の事務的業務の負担軽減,3.NP・PAなどの専門的医療従事者の導入・整備・拡充による外科医の診療行為の補完,が求められていることが明らかになった.外科医本来の業務が行える環境整備が必要であると考えられる.

V.おわりに
今回の調査では,多忙な外科医ほど,タスクシフトによる業務軽減を求めていた.外科医が希望する「働き方改革」の実現には,単なる勤務時間の短縮のみならず,外科医本来の業務に邁進できる環境作りの対策が不可欠である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 医療提供体制の改革について.2020年4月1日. https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000504323.pdf
2) 医師の働き方改革の推進に関する検討会.2020年4月1日. https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000529077.pdf
3) 医師の働き方改革に関する検討会 報告書.2020年4月1日. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000496522.pdf

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