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日外会誌. 123(1): 83-84, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「≪外科学再興特別企画≫癌に対する免疫治療New Era」
2.制御性T細胞を標的としたがん免疫療法開発

大阪大学大学院医学系研究科 臨床腫瘍免疫学

和田 尚

(2021年4月10日受付)



キーワード
Treg, ICOS, CCR4, CCR8

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I.はじめに
腫瘍免疫の抑制因子の一つである制御性T細胞(Treg)はCD25あるいはFoxp3陽性の分画とされるが,活性化Tregはそれぞれの「強」陽性分画に存在する.このためTreg除去によるがん免疫療法として介入を考える際には,腫瘍免疫の最前線である腫瘍組織内における活性化Treg特異的に発現する抗原の解析が必要となる.

II.胃がんにおけるICOS 1)2)
ICOSは免疫チェックポイントの一つでありT細胞活性化マーカーとして知られる.以前より腫瘍組織内Tregに強発現することは知られていた.胃がん81症例の組織内T細胞のICOS発現をフローサイトメーターにて解析すると,CD4CD25分画に特異的に発現し,CD8細胞に発現はみられなかった.CD4CD25ICOS細胞群は,CD25++であり刺激後にIL-10など抑制性サイトカインを産生することから,活性化Tregであると考えられた.臨床との関係においても,その頻度は悪性度が進むにつれて有意に上昇し,無再発生存期間と逆相関したことなどより,胃癌においてICOSは腫瘍組織内活性化Treg特異的抗原として介入のための良好な標的分子であると考えられた.ICOSTregの頻度は,ピロリ菌抗体を有する症例で有意に多いこと,ICOS-Lを持つ形質細胞様樹状細胞(pDC)がピロリ菌抗体を有する症例で多いことなどから,ピロリ感染胃癌症例ではトール様受容体(TLR)9を介してpDCが刺激され,ICOS-Lを発現しICOSTregを誘導することが示唆され,in vitroでも誘導が確認された.一方で,手術前に除菌した症例ではICOSTreg頻度は低く,術前除菌は胃がんに対する免疫療法となりうることが示唆された.

III.抗CTLA4抗体 3)
免疫療法としてのチェックポイント分子阻害剤の草分けである抗CTLA4抗体は,腫瘍抗原特異的T細胞の初期誘導を抑制するとされているが,Treg除去作用も抗腫瘍効果に寄与することが報告されている.マウスでもヒトでも腫瘍組織内Tregの減少が抗体投与後に観察されている.TregにCTLA4が高頻度に強発現していること,ADCC(抗体依存性細胞介在性細胞傷害)活性の高い骨髄球を持つ症例で抗CTLA4抗体の臨床効果が強いこと,などもTreg除去の関与を裏付けている.

IV.抗CCR4抗体 4)
ケモカイン受容体であるCCR4は成人白血病ATLに強発現することから,抗CCR4抗体モガムリズマブはATLに対するオーファンドラッグとして2012年に国に認められた.CCR4は活性化Tregに強発現することから,固形癌症例に対してはTreg除去による腫瘍免疫増強を期待しうる.われわれは2014年より「固形癌に対するモガムリズマブ投与Ia/Ib相治験」を多施設共同で実施し,計49例が参加した.重篤な有害事象は観察されず,回復可能な皮膚症状を多くの症例に観察したものの,安全性を確認しえた.末梢血中活性化Tregは全例でほぼ消失し,臨床症状としてはPR症例も経験した.更なる臨床効果を求め,「固形癌に対する抗PD-1抗体併用モガムリズマブ術前投与治験」を次いで実施,標準治療としての外科的切除の術前に二剤を投与した.多くの症例で皮膚障害を示したが重篤化した症例はなく,手術が遅延した症例はなかった.臨床効果としては,腫瘍の縮小を観察した症例も多数存在し,術後も無再発症例を多く観察している.また投与前後で採取した腫瘍組織を用いた活性化Tregの検討では,著明な減少を観察しえた.

V.抗CCR8抗体
新たに活性化Tregの特異抗原としてCCR8を同定した.抗マウスCCR8抗体を用いたマウス担癌モデルでは,抗PD-1抗体よりも強い腫瘍縮小効果を示し,併用時にはほぼ全例で腫瘍退縮を観察した.腫瘍組織中Tregはほぼ消失していた.塩野義製薬と共同でヒト化抗CCR8抗体を開発中であり,2021年度中にFirst patient inを予定している.

VI.おわりに
Tregは腫瘍の悪性度や患者予後と強い相関を示すことが報告されてはいたものの,臨床においてTreg除去ががん患者の利益になるかに関しては不明であった.開発されてきたTreg特異的とされる抗原に検討の余地があったのもその原因の一つであろう.今回同定したCCR8は腫瘍組織内活性化Tregに特異的であり,開発している抗体医薬の臨床応用の効果が期待されている.

 
利益相反
研究費:小野薬品工業株式会社,協和キリン株式会社
寄附講座:臨床腫瘍免疫学は塩野義製薬株式会社との共同研究講座である.

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文献
1) Urakawa S , Yamasaki M , Makino T , et al.: The impact of ICOS+ regulatory T cells and Helicobacter pylori infection on the prognosis of patients with gastric and colorectal cancer:potential prognostic benefit of pre‑operative eradication therapy. Cancer Immunol Immunother, 70: 443-452, 2021.
2) Nagase H , Takeoka T , Urakawa S , et al.: ICOS+ Foxp3+ TILs in gastric cancer are prognostic markers and effector regulatory T cells associated with Helicobacter pylori. Int J Cancer, 140: 686-695, 2017.
3) Arce Vargas F , Furness AJS , Litchfield K , et al.: Fc Effector Function Contributes to the Activity of Human Anti-CTLA-4 Antibodies. Cancer Cell, 33: 649-663, 2018.
4) Kurose K , Ohue Y , Wada H , et al.: Phase Ia Study of FoxP3+ CD4 Treg Depletion by Infusion of a Humanized Anti-CCR4 Antibody, KW-0761, in Cancer Patients. Clin Cancer Res, 21: 4327-4336, 2015.

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