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日外会誌. 122(6): 705-707, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
6.外科診療の医療資源集中と地域医療連携のためのブロックチェーンを併用した中央集約型および分散型医療情報共有方法

千葉大学医学部附属病院検査部,同 遺伝子診療部,同 がんゲノムセンター 

松下 一之

(2021年4月9日受付)



キーワード
がんゲノム医療, 外科診療, 医療データ, ゲノム情報, ブロックチェーン

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I.はじめに
がんゲノム医療の分野では,患者の医療データとゲノム情報を共有するシステムが構築されつつありオンライン医療を推進する議論も始まっている1).本稿では,外科診療における医療資源の集中と地域医療の展開を見据えて,患者中心のブロックチェーンを使用した新しい分散型医療情報共有システムの1例としてWebアプリケーション(CRアプリケーションシステム)を紹介する.

II.背景と目的
本研究では,外科診療における医療情報を患者中心の視点から,分散型ブロックチェーンを用いて共有することを目的とした2)

III.ゲノム医療における5P医療
Predictive(予測),Preventive(予防),Personalized(個別化),Participatory(患者参加),Preemptive(先制・発症前)のいわゆる5P医療では,患者個人が自らの情報を理解して意思決定することが重要である.がんゲノム医療では医療情報にもとづく診断や治療選択は種々のデータベースを用いた確率統計情報により行われるため,患者の意思決定をサポートする方法が必要である3)

IV.「医療情報の中央集権型の管理」から「患者中心の分散型管理による利活用」へ
現在の医療情報の秘匿性レベルと中央集権型のデータベースの関係を示す.医療情報を秘匿性レベルに基づいて1,2,3に分類した.秘匿性レベル1は遺伝性疾患などのゲノム情報が含まれる(図1).秘匿性レベル2はカルテ番号,診療録(テキスト化されたもの)少数の遺伝子の変異情報,医療機関受診歴,血液・生化学・尿一般検査結果など,秘匿性レベル3は,生理機能検査結果などである.信頼度1のリスト者では,秘匿性レベル1,2,3の全ての診療情報を閲覧する権限が患者の同意のもとに付与される.同様に,セカンドオピニオンなどの場合には秘匿性2,3など秘匿性レベルを下げていき,それらの情報を患者の同意のもとで共有可能とする.このように,患者の承認を得た段階的なホワイトリストを作成し,外科診療の資源集中と地域医療に役立てることが可能である.

図01

V.地域医療連携における医師・患者間の患者データ共用システム
患者が判断した信頼度別のホワイトリストにもとづいて,秘匿性レベルがことなる患者情報が閲覧可能である.すなわち,
1.患者本位の質の高い医療情報の共有方法の開発(ゲノム情報,家系図情報などを含む).
2.改ざん防止,追跡可能,記録の保存など.
3.限定された使用者のネットワーク(いわゆるホワイトリスト).
4.電子同意(本人確認含む)や患者側から医療情報の使用確認が可能(オプトアウト).かつ医療者と患者の信頼度レベル(医療情報の質や量などレベルと主治医やセカンドオピニオンなどの取り扱い)の設定.
などである1)

VI.ブロックチェーン技術
ブロックチェーン技術は,当初金融分野で発達した技術で医療応用された例はほとんどない2).ブロックチェーンでは対象データへのアクセス記録をハッシュ値として書き込むことで,データ改ざんの回避やデータの透明性を維持することが可能である.今回開発したアプリケーションでは,セキュリティの確保のためにデータ利用承認の確認,暗号化されたデータのダウンロード/アップロードの記録を残すために,クラウド上に診療データベースを取り扱うためのアプリケーションサーバーを設定する(図2).これらの医療情報は,主治医やセカンドオピニオンの専門家医師などと患者の同意のもとに共有して閲覧可能となっている.現在,当院とTIS株式会社はクラウド型地域医療情報連携サービス「ヘルスケアパスポート」を運用している(図2).今回開発したアプリ―ケーションをFAXの代替法として地域医療の現場で併用することを検討している.

図02

VII.おわりに
ゲノム医療の進歩は外科診療においても5P医療,Personalized(個別化),Predictive(予測),Preventive(予防),Participatory(患者参加),Preemptive(先制・発症前)をもたらしつつある.患者中心の医療では,分散共有型ブロックチェーンを用いた地域診療における医療者間,医療者-患者間の長期にわたる正確な双方向の情報共有が必要であり,そのためのアプリケーションを開発し今後実用化を目指している.
謝  辞
本稿をまとめるにあたり,松原久裕会頭,関係の皆様に感謝を申し上げる.株式会社レシカ,TIS INTEC Groupの関係者,千葉大学医学部附属病院地域医療連携部,同検査部スタッフ,同遺伝子診療部,同がんゲノムセンター各位にご協力いただいた.本研究の一部は令和元年度―令和3年度,科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)(基盤研究(B)(特設分野研究))「情報社会におけるトラスト」「中央集約型と分散型の併用による医療情報共有のためのトラスト(信頼関係)の評価法」1 9 K T 0 0 1 9(研究代表者 松下一之)の支援を受けて行われた.

 
利益相反:なし

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文献
1) 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」厚生労働省版:平成30年3月. https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf(2020年12月20日確認).
2) ダイクリス, 澤井 恵 , 相羽 良寿 ,他:患者中心型の分散型医療情報共有技術としてのブロックチェーンの可能性(第32回関東・甲信越支部総会)--(特別講演 変動する医療分野で必要な検査部の多様な役割と課題).日臨検医会誌,69(1):25-37, 2021.
3) 松下 一之 :ゲノム医療の検査実用化に向けた展望.「医療機関で行うための体制整備(診療報酬,各診療科間の連携)」.臨床病理レビュー特集第164号.遺伝子解析技術の革新がもたらす臨床検査とは.克誠堂出版,東京,pp9-21, 2020.

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