日外会誌. 122(6): 702-704, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
5.がん地域連携パスの積極的な活用が,地域がん医療を支える
宮崎県立宮崎病院 外科 植田 雄一 , 大友 直樹 , 牧野 裕子 , 日髙 秀樹 , 中村 豪 , 別府 樹一郎 , 大内田 次郎 , 寺坂 壮史 , 吉田 真樹 , 新垣 滉大 (2021年4月9日受付) |
キーワード
がん地域連携パス, 地域連携クリティカルパス, 外科医師不足, 働き方改革, 地域医療構想
I.はじめに
わが国の医師数の推移をみると,年々増加傾向にあるものの,最近20年間の外科医師数は横ばいを継続している.この様な外科医師数の推移の背景には,若手医師の外科離れが深刻であることが示されている1).日本の人口推移と同様に,外科医師数の推移においても,若手外科医師の減少と外科医の高齢化が進んでおり,外科医師不足は全国的な問題である.
II.地方のがん拠点病院に課せられた課題
全国的な外科医師不足という状況の中,国の政策として掲げられた,男女共同参画の推進や働き方改革への対応が急務となり,ただでさえ外科医師数が少ない地方病院にとって,重くのしかかる課題であると言わざるを得ない.地域医療に対する経済財政運営と改革の基本方針が閣議決定され,理想的な地域医療構想の実現・働き方改革・医師偏在対策が三位一体となり推進されていくため,地域のがん拠点病院には日常診療の変革が求められている(図1).一方で,臓器別診療が日常となった昨今において,各分野の発展に伴い各専門医が必要とされる知識は膨大となっている.乳腺分野においては,治療の個別化が進み,患者個々の遺伝子プロファイルも治療方針の決定に必要となってきた.その他,地域の乳腺外科医が担う役割や負担は増え続けているのが現状である.当院は県内の地域がん拠点病院であるが,全ての診療科があるわけではなく,再建手術・妊孕性・遺伝学的な分野の説明など,乳癌診療に関する膨大な量の患者への説明は,主治医がすべて行っている.転移再発治療も外科医が担っており,外科医師の負担は時代を経るごとに増えるばかりで,術後のフォローアップに要する時間が限られているのが現状である.
III.がん地域連携パスの積極的な活用
当院では,2012年5月より乳がん地域連携クリティカルパスを導入し,術後のフォローアップを連携先医療機関で行っている.毎年10以上の施設と連携しており,2019年までに合計37の施設と連携してパスを運用している.活用を進めていくことで,当院への来院は1年に1回となり,外来診療の負担が軽減された.パス導入後徐々に利便性が各主治医間で浸透し,パス活用率は2012年の47%から,2019年には59%まで増加し,総件数は800例以上となった(図2).地域連携パスを積極的に活用した結果,術後受診患者数が4分の1に減少し,患者一人あたりの診療時間も短縮され,外来診療の負担が大幅に減少した.外来フォローアップにかけていた負担分は,患者への説明等に時間を費やすことができるため,日常診療を円滑に行うことが可能である.また,今回のSARS-CoV-2感染拡大時には,患者の受診変更をスムーズに調整することが可能であり,地域連携パスの有用性を再確認することができた.パスを導入した症例のステージごとの5年相対生存率は,StageⅠ100% StageⅡ96% StageⅢ81%と全国がん統計2)と比較しても劣らず,パス活用による患者の不利益は認めなかった(図3).当院の年間手術件数は,パス導入前と比較すると150例程増加しているが,主治医一人に対する1カ月の平均外来患者数は増加しておらず,効率的な外来診療を維持できている.
IV.地域連携クリティカルパスの問題点
平成30年3月に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」で,地域連携クリティカルパスに関する現状・課題として,施設ごとの運用実績のばらつきが挙げられている.取り組むべき施策として,クリティカルパスのあり方の見直しについての検討がなされており,今後もクリティカルパスが継続して運用されていくかは不透明な状況である.地域連携クリティカルパスは地域医療を支える一つの重要なツールであることを,今後も発信していく必要がある.
V.おわりに
今後,働き方改革や資源の集約化が加速していく流れにおいて,地方のがん拠点病院は外科医不足という問題と闘いながら,適切な医療を提供することが求められている.理想的な地域医療構想の実現に向けて,地域連携クリティカルパスの積極的な活用は,地域のがん医療を支える有用な手段である.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。