日外会誌. 122(6): 699-701, 2021
定期学術集会特別企画記録
第121回日本外科学会定期学術集会
特別企画(5)「資源の集中と地域医療」
4.地方における多施設データベース統一とオンラインを利用した 学会発表・論文作成の活性化
1) 長崎大学大学院 腫瘍外科 富永 哲郎1) , 野中 隆1) , 福田 明子1) , 森山 正章1) , 小山 正三朗1) , 石井 光寿1) , 竹下 浩明2) , 濱田 聖暁3) , 荒木 政人3) , 角田 順久3) , 久永 真4) , 福岡 秀敏4) , 和田 英雄5) , 黨 和夫5) , 田中 賢治6) , 澤井 照光1) , 永安 武1) (2021年4月9日受付) |
キーワード
地方, データベース, 論文作成, オンライン
I.はじめに
地方は,多数の症例が集まる都市部と比較し,慢性的な外科医不足や地理的問題による施設間手術数のばらつきがみられる.これにより①手術手技の定型化や治療方針の統一②症例数の多いデータベースを用いた外部への情報発信(学会発表・論文化)に関して不利な点が多い.実際,これまでの学会発表は各々の病院において症例数の少ないケースレポートの発表が主であり,主題に採択される機会が少なかった.また,そのまま論文化できるテーマが少ないといった問題があった.各施設が連携して,この問題を解決することは地域医療の安定化・活性化を図るために重要である.
われわれは2016年よりNCOG(Nagasaki Colorectal Oncology Group)を立ち上げた.これは長崎県下関連病院群の大腸癌データベースを統一し,短期・長期成績を解析することで地域の治療水準の向上に役立てること,また,データベースを共通化することで,大規模データを用いた臨床研究結果を外部に向けて発信することを目的としている.年に2回,ミーティングを開催し,データのまとめ,問題点の抽出を行う.また,NCOGデータを用いた学会発表や論文発表の報告を行う.多施設より得られた臨床データを「学会発表」「論文発表」につなげる取り組みについて紹介する.
II.学会発表の活性化に対する取り組み
学会発表は,全国学会の主題発表を目標とする.学会のテーマが発表されると,NCOGデータを用いて発表できるテーマを抽出する.これを,NCOG参加施設の先生に告知し,発表テーマの希望を募る.大学が中心となり,発表者を調整することで重複することなくテーマを把握できる.若手の先生にも積極的に発表を促している.この,学会発表の実績は,年2回のミーティングにて報告することで,各医師のテーマを皆が把握でき,勤務先が異動になっても一貫したテーマで発表ができるメリットがある.
III.論文活性化に対する取り組み
「学会発表」はできるけれど「論文はかけない」といった声はよく聞かれる.当医局では基本的に修練医は大学で勤務,それから数年は関連病院で研鑽するケースが多い.本来は,大学で与えられたテーマを関連病院勤務時に論文化し,関連病院勤務時にNCOGデータを用いて論文化することが望ましいが,それにはいくつかの障壁があった.一つ目は「地理的問題」で毎年の異動により論文指導医との連携が難しくなること.二つ目は「論文の勉強不足」で論文作成について学ぶ機会が少ないこと.三つ目は「論文指導不足」で各施設に論文指導者がいない,または指導機会が少ないことである.われわれは,これらの問題点について,オンラインアプリを活用し解決する試みを行ってきた.
①地理的問題とオンライン
これまでは,論文執筆医が異動した場合,業務後や休日に指導医への施設に赴いて直接指導を受ける事が多く,多忙な業務のため論文が「お蔵入り」するケースも多くみられた.オンラインで定期的に連絡を取ることで地理的問題を解決している.これにはお互いの時間が合わせやすい,病院間距離に左右されないなどのメリットがある.また,画面共有機能により,データの内容をより詳細にDiscussionでき,初心者には共有しながら一緒に論文投稿などを行うことも可能である.
②論文作成の勉強とオンライン
若手の先生からは「論文の書き方がわからない」「何から手を付けていいかわからない」など,様々な悩みがある.しかし,市中病院でこれを勉強する機会は限られている.そこで,月に1回大学病院を発信元とし臨床論文勉強会を開催している.当直先や遠方の関連病院でも気軽に参加できるようオンラインアプリで行っている.各勉強会では,論文作成・学会発表に関するテーマで勉強会を行い,その後,論文作成の進捗状況を報告している.
③論文指導医育成とオンライン(図1)
この臨床論文勉強会では,指導医育成のため「「執筆医」には必ず「指導医」をつけ,各月の進捗報告前には必ず状況を確認する」というルールを定めている.この会の目的の一つは論文作成の「ペースメーカー」となることで,悩み・疑問点の早期解決,執筆医・指導医の連携強化,指導医としての意識付けを行っている.
④モチベーション継続のために
モチベーション継続のためこまめにフィードバックを行っている.勉強会に参加できない先生へ勉強会内容のPDFの送付,進捗状況はコメントを添えてグループメールで配信している.また,年に1回NCOGミーティングで年間ベスト論文賞・学会発表賞で表彰も行っている.
IV.今後の展望
これらの取り組みにより,近年主題発表や,論文発表の数が増加している(図2).特筆すべきは,関連病院勤務若手医師によるNCOGデータを用いた論文作成の数が増加してきたことである.今後は臨床試験への参加や,各関連病院の指導者育成による,さらなる外部発信の強化を行っていきたい.
V.おわりに
地方において多施設データベースの統一とオンラインアプリの活用は,地理的問題・人的問題を軽減し,学会発表・論文作成の活性化に有用と考えられる.
利益相反:なし
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