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日外会誌. 122(5): 443-448, 2021

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特集

大動脈弁疾患に対する外科的治療の現況

2.生体弁の進歩とその適応の変遷

国立循環器病研究センター 心臓血管外科

藤田 知之

内容要旨
TAVR(Transcatheter aortic valve replacement)の出現は高齢者の大動脈弁疾患の治療を劇的に変え,「ハートチーム」コンセプトが内科と外科が協力して治療にあたる時代となった.TAVRの良好な成績からその適応の拡大が進み,Valve-in-valveも適応をとった.最近開発された生体弁は,良好な耐久性や血行動態はもちろんのこと,将来のValve-in-valveに備えた構造を持っているため,「最新の生体弁+Valve-in-valve」で長期再開胸回避が可能となり,より生体弁が好まれるようになった.また,ハイリスク患者に対して,または低侵襲手術(MICS)においては,Sutureless valveやrapid-deployment valveが使用される.TAVRと異なり大動脈遮断は要するものの短時間ですみ,さらに弁の石灰化も除去できるので有用である.新しい生体弁は次々開発されており,そのエビデンスによってガイドラインは変わり,適応も変わる.デバイスラグが解消されつつある現在,日本発のエビデンス創出が重要と考える.

キーワード
生体弁, Transcatheter aortic valve replacement, Valve-in-valve, ハートチーム

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I.はじめに
最近の弁膜症に対する治療は劇的に変わりつつあり,いわゆる「パラダイムシフト」がおこっていると言って良い.特に,TAVR(Transcatheter aortic valve replacement)の出現は高齢者の大動脈弁疾患の治療を劇的に変えた.「ハートチーム」コンセプトが内科と外科の垣根を取り払い,現場で協力して治療にあたる時代となった.ここでは,生体弁の進歩とその適応の変遷について述べる.

II.生体弁の歴史
弁膜症に対する治療は1914年に始まった.当初は閉鎖式の術式であったが,人工心肺装置の発達と共に開心術が可能となり,最初の人工弁を用いた弁置換術は1960年に行われた.人工弁には機械弁と生体弁の2種類あり,この時は機械弁であるCaged ball弁が使用された.最初の生体弁置換術は1962年に人の死体から採取した同種弁を用いて行われた.1966年,異種弁(ブタの大動脈弁)を用いた生体弁が生まれ,1971年,ウシの心膜を加工した生体弁が誕生した.その後は耐久性を高める研究が進んだ.2000年,TAVRが初めて行われた.2003年MitraClipも生まれ,閉鎖式の手術から開心術へ,そして閉鎖式へと歴史は動いていると同時に各種人工弁やデバイスの開発が進歩している(図1).

図01

III.ガイドラインで見る生体弁の選択
弁置換術における弁選択は患者の予後に影響する問題であるため,①十分に話し合い本人の意思を尊重すること,②それぞれの弁の短所長所を考慮し最適な弁を推奨すること,③患者の手術リスクなどを考慮し最適な弁を推奨すること,が大切である.その上で,おおよその年齢による弁の推奨がある(図2).2017年のAHA/ACCガイドラインのアップデートでは,大動脈弁置換術(AVR)における機械弁の推奨が60歳未満から50歳未満に引き下げられた1).70歳より高齢では生体弁が推奨され,50~70歳の年齢群の患者は本人の好みや患者背景で生体弁か機械弁を選択することと推奨された.2020年のアップデートでは機械弁の推奨は50歳未満のままであるが,50~65歳は本人の好みや患者背景で生体弁か機械弁を選択することが推奨され,65歳より高齢では,生体弁かTAVRのいずれかを選択するという推奨となった2).TAVRの推奨が拡大したのはTAVRがlow risk患者群への使用において良好な短期成績を示しFDAに認可されたことによる3) 4).なお,僧帽弁置換術(MVR)では,65歳以上の患者に生体弁が推奨されている.
一方,日本の弁膜症ガイドラインも2020年にアップデートされ機械弁の推奨はAVRで60歳未満,MVRで65歳未満と引き下げられており,生体弁の推奨はAVRで65歳以上,MVRで70歳以上,その間の年齢層は本人の好みや患者背景で生体弁か機械弁を選択すると推奨され自由度が増した5).リウマチ性心疾患の減少,degenerativeな弁変性の増加により,弁置換術の対象患者の平均年齢は上昇している.患者の高齢化,機械弁推奨年齢の引き下げに加え,欧米化した生活スタイルや考え方により,ますます生体弁の使用頻度があがっている.

図02

IV.Valve-in-valve
生体弁の機能不全(structural valve deterioration;SVD)に対する治療において2017年AHA/ACCガイドラインでは,再弁置換に加え,良好な短期成績を示すValve-in-valve6)が選択肢として明記された.既に埋め込まれた生体弁の中にTAVRを行うもので,元の弁より有効弁口面積が小さくなる欠点はあるが,再開胸手術のリスクが低減する利点がある.2020年のアップデートでは「Comprehensive Valve Center」で行うことが条件としつつ,ハイリスク患者に対してはValve-in-valveが推奨されている.2020年の日本の弁膜症ガイドラインでもAVR後の生体弁機能不全に対しては「弁膜症チーム」による決定が必要であるが,ハイリスク症例にはValve-in-valveが推奨されている.これにより「生体弁+Valve-in-valve」を一単位と考え,若年者においても生体弁選択がより好まれる風潮となった.しかし,TAVR後のAVRはリスクが高く,現在の日本ではTAV-in-TAVは保険適応外であるため米国のように65歳でTAVRを行うなどの過激なことは推奨されない.また,日本においては21mm以下の生体弁が選択されることが多く,それに対してValve-in-valveを行った場合,人工弁と患者の体格のミスマッチ(Prosthesis-Patient mismatch;PPM)が発生する可能性がある.患者個々の予後を予測し最適な弁を推奨することが医師の使命である.

V.生体弁の耐久性向上と有効弁口面積拡大
弁置換術で使用される生体弁の最重要なことは耐久性である.SVDの回避率は若年の方が低く高齢になれば高くなる7).特に50歳未満では10年を過ぎた頃からのSVDが増加し,予後にも影響すると報告されており,若年者への生体弁選択は慎重にするべきである(図18).ブタ弁は弁尖のtearが多く大動脈弁閉鎖不全症(AR)として劣化し,ウシ心膜弁は石灰化しやすく大動脈弁狭窄症(AS)として劣化する.AVRにおいてはブタ弁とウシ心膜弁の耐久性は同等もしくはウシ心膜弁が優れていると報告されている.
MVRにおいては,生体弁選択はブタ弁の方がウシ心膜弁より耐久性が良いと報告されている9)
人工弁の有効弁口面積が小さいとPPMがおこると予後不良であることが言われてきた10).通常の生体弁は3本のステントポストの内側に弁尖が来るが,外巻き弁はステントポストの外側に心膜が巻き付けてあるので,有効弁口面積は大きい11).しかし,外巻き弁の弁尖は冠動脈に近くなるためValve-in-valveを行った場合冠動脈入口部の閉塞が起こりやすいとの報告もある12)

図01

VI. 最新の生体弁
最新の弁の一つであるAVALUS弁(Medtronic Inc. CA, USA)(図3A)は17mmからのサイズ展開がある.優れた抗石灰化処理を加えたウシ心膜を用いた弁で十分な有効弁口面積を有し,ステントポストが短く柔らかい素材でできている.血行動態とimplantabilityを両立しており,長期耐久性も期待され将来のValve-in-valveにも備えられている13) 14)
INSPIRIS弁(Edwards lifescience Inc. CA, USA)(図3B)の早期成績は5年間でのSVDの報告はなく良好なものであったと報告された15).この弁は同社が「RESILIA」と呼ぶ抗石灰化処理を改善させたウシ心膜を用いており,現在までの主流の弁であったMagna弁よりも長期成績が良いと期待される.また,ドライパッケージで供給されるため保存や開封も容易である.加えて将来のValve-in-valveを想定し,4気圧程度の加圧で2mmほど拡大する弁輪を持たせる工夫もされている.それにより,Valve-in-valve後のPPMを防ぐことが期待されている.
通常のAVRにおいてはこれら二つの弁が現在の主流と言える.また,「RESILIA」を使用したMVR用の生体弁MITRIS弁(図3C)もまもなく発売される.

図03

VII.大動脈遮断時時間を短縮する弁
大動脈遮断時間は予後に影響するため短いに越したことはない16).TAVR弁よりも長期成績が期待できるが,TAVR弁のように結紮を必要としないSutureless valve(図3D),または結紮を最小限にとどめたrapid-deployment valve(図3E)も導入された.TAVRと比較すると,あくまでAVRであるため大動脈遮断を要するが石灰化した弁を切除できる利点がある.手術が簡略化されるためハイリスク症例,遮断時間が長くなる症例,MICS(低侵襲心臓手術)に適している.

図03

VIII.おわりに
上記のように弁選択は時代とともに(エビデンスとともに)変化している.また,次々に新たな人工弁が開発されており,手術侵襲の低減化,長期予後の改善に役立っている.海外と日本のデバイスラグはなくなりつつあるため,日本のエビデンスを確認することが重要であると考えられる.治療にあたっては,内科,外科の垣根が取り払われつつあり,ハートチームが重要である.

 
利益相反
講演料など:エドワーズライフサイエンス株式会社,アボットジャパン合同会社
研究費:エドワーズライフサイエンス株式会社,アボットジャパン合同会社

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文献
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2) Otto CM , Nishimura RA , Bonow RO , et al.: 2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease:Executive Summary:A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines. Circulation, 143(5):e35-e71, 2021.
3) Mack MJ , Leon MB , Thourani VH , et al.: Transcatheter Aortic-Valve Replacement with a Balloon-Expandable Valve in Low-Risk Patients. N Engl J Med, 380: 1695-1705, 2019.
4) Popma JJ , Deeb GM , Yakubov SJ , et al.: Transcatheter Aortic-Valve Replacement with a Self-Expanding Valve in Low-Risk Patients. N Engl J Med, 380: 1706-1715, 2019.
5) 2020年改訂版弁膜症治療のガイドライン JCS/JATS/JSVS/JSCS 2020 Guideline on the management of Valvular Heart Disease
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