日外会誌. 122(4): 419, 2021
手術のtips and pitfalls
「内分泌外科領域で知っておきたい拡大手術手技」によせて
東京女子医科大学 乳腺・内分泌外科 堀内 喜代美 |
日本内分泌外科学会では2009年に甲状腺腫瘍診療ガイドラインを発表し,2019年に改定をしました.これにより,甲状腺癌の術前評価から術式,そして術後の放射性ヨウ素内用療法やTSH抑制療法までの一連の治療体系がある程度標準化されたと言えます.特に甲状腺乳頭癌の場合,微小癌であれば手術をせず経過観察の選択肢が付け加えられたのは記憶に新しいところです.
しかし,甲状腺癌は微小癌だけが増えているわけではなく,時に進行癌の手術を余儀なくされます.進行癌にはリンパ節転移が広がっている場合と,局所の臓器へ浸潤している進行癌の2種類があると考えます.本項ではそれぞれの進行癌に対する手術のコツについて,エキスパートの先生方に解説していただきます.
一つ目は,リンパ節転移が上縦郭から鎖骨上窩まで広がっている場合です.特に胸鎖関節の裏のリンパ節郭清は視野が十分に取れず,また総頚動脈,腕頭動脈,内経静脈,が走行しているため頚部からの郭清には難渋します.胸骨正中切開では,侵襲が大きい割には,肝心な胸鎖関節裏の視野はあまり良くありません.その際に,呼吸器外科と合同で手術に臨み,十分な視野を確保することが可能となります.その到達方法である,transmanubrial approachを呼吸器外科医である前田英之先生,神崎正人先生に解説していただきます.
二つ目は,局所進行癌の場合です.甲状腺癌の気管浸潤が広範囲,特に気管膜様部まで浸潤していると,気管環状切除を行うか非根治手術で終わるか迷うことがあります.
甲状腺分化癌はとても予後の良い癌であるため,根治手術を目指すことは外科医なら当然の考えであります.そこで,日本の外科医では最も多くの気管環状切除術を行っている,エキスパートである筒井英光先生にそのコツを解説していただきます.
本項は内分泌外科医のみならず,他の領域の先生方にも幅広く手術手技の参考になると思います.会員の皆様の手術の一助になれば幸いです.
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